【Overseas-52】最も美しく、最も危険な思想ーー普遍性(Part 1)

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Part 1. 解説

目次

  1. Part 1. 解説
  2. 歪な軍拡
  3. なぜ「私たちは皆ひとつの人類だ」が危険なのか
    • 多極化は本当に世界を不安定するのか
    • 歴史はそうは示していない
    • 最悪の戦争は“兄弟殺し“だ
    • アメリカ一極支配は戦争を減らさなかった
    • リベラルはなぜ不寛容になったのか
    • Foreign(外国/他者)が消えると、戦争はなくなるのか
    • 普遍主義は、唯一の正しさしか認めない
    • 多極化は戦争の原因ではなく、抑制をもたらす

歪な軍拡

日本の政治家たちは、「安全保障環境の急激な悪化」という言葉を繰り返している。その背景には、依然として19〜20世紀型の勢力均衡論がある。中国・ロシア・北朝鮮の軍事的影響力の増大を脅威として捉え、それへの対抗策として、対米依存と軍備拡張をさらに強化するという構図だ。

しかし、その一方で、日本の安全保障は極めて歪な形で進んできた。21世紀型安全保障――経済安全保障、技術主権、サプライチェーン、情報空間、AI――への制度対応は遅れたまま、政治的にもっとも見えやすく、支持も得やすい「軍事対応」に重心が偏って来た。

結果として、半導体製造装置・材料ではなお強みを持ちながら、先端半導体、AI、クラウド、OS/プラットフォームではアメリカ依存、レアアースでは中国依存、エネルギーでは中東依存という構造ができあがった。

単純化して言えば、

武器はある。だが、それを動かす燃料・半導体・AI・供給網は他者依存である。

という、歪な安全保障である。

こうした強硬路線に対し、2026年5月3日の憲法記念日には、全国200カ所超、8〜10万人規模と推定される反戦・反改憲デモが行われた。近年の日本では珍しい規模である。

だが、ここで一つの問いが生じる。
「反戦」の論理は、本当に十分だろうか。

例えば、「私たちは皆ひとつの人類だ。だから戦争をやめよう。」は、直感的には美しく、疑いようのない考えに思える。しかし、それこそが戦争を生み出す論理なのだ、と主張する論者がいる。

アルノー・ベルトラン(Arnaud Bertrand)だ。

なぜ「私たちは皆ひとつの人類だ」が危険なのか

今回取り上げたい主題は、この反戦の論理についてだ。
アルノー・ベルトラン(Arnaud Bertrand)が最近(2026年5月10日)、
“The Tyranny of “We” – Why “We Are All One Humanity” Is The Most Dangerous Idea On Earth“ というタイトルの論考を発表した。直訳すると、『「私たち」の暴虐 – なぜ「私たちは皆ひとつの人類だ」が地球上で最も危険な考えなのか』とでもするしかないが、このままでは中身が分かりにくいので、この内容を紹介しようと思う。

タイトルにあるような「私たちは皆ひとつの人類だ」という考え方は、そのまま「だから、戦争なんかやめよう」という反戦の論理になりやすい。しかし、そのような直感に反して、それは戦争を導く論理になると言うことをベルトランは、論証していく。

5月3日に行動に出た推定8〜10万人の人々の中には様々な動機、考えの人がいただろう。しかし、その中で「反戦」は、共通項として機能したのではないだろうかと思う。そうであるなら、「反戦」を進めるための論理は非常に重要になる。しかし、その論理が共有されてるかどうかは怪しい。

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そこで、ベルトランのこの論考を要約することにした。以下は、なぜ「私たちは皆ひとつの人類だ」が危険なのかという問題を念頭に置きながら読んでほしい。

多極化は本当に世界を不安定するのか

現在、国際政治学では「多極化(multipolarity)は世界を不安定にする」という考え方が広く共有されている。中国、ロシア、インドなど複数の大国が並び立つ世界は、相互不信と誤算によって戦争が増える、という理屈だ。ウクライナ戦争やイラン戦争も、その始まりだと語られる。

しかしアルノー・ベルトランは、この通説に真っ向から反論する。
彼の方法は単純だ。数学でいう「反例(counterexample)」を探すことだ。もし「多極化=戦争増加」が本当に法則なら、歴史上の多極時代は、一極・二極時代より一貫して暴力的だったはずである。

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