勉強したい大人たち

もう2ヶ月近く前になるけど、ふと思い立って下のようなツイートをした。

24時間で1,634人の方が回答してくれ、たくさんのリプが付いていた。

そのリプに書かれている”勉強したいこと”があまりに面白いので、いつかまとめようと思っていて2ヶ月経った。

回答者の9割が勉強したいというのもちょっとした驚きだったが、その内容の多さ、豊かさ、多様さはもっと驚きだった。いろんなトピックでやるYoshilog Live の感想から、薄々は感じていたーこの人たちは今人生で一番勉強欲が湧いているのではないだろうかと。言うまでもなく、勉強をするベストなタイミングというのは、そういう時だ。やる気のない時にする勉強ほど、効果の薄いものはない。

一年近く前だけど、アメリカのコミュニティ・カレッジについて書いたことがある。ごちゃごちゃと書いたが、コミュニティ・カレッジというのは、人が何かを勉強したいと思ったり、何かを勉強する必要があると感じたりした時に爆発する勉強欲を受け止める器(うつわ)だと思う。そんな器がある国とない国では、人々の幸福度に大きな違いが出てくると思う。効率の良い人材の再教育とかのお題目を持ち出せば、コミュニティ・カレッジのもたらす国家としての有利さという側面ももちろんあるだろうけど、そこをあまり強調し過ぎると、”お国の役に立つための勉強”というところに収斂して行きかねず、あまり力みたくない。言いたかったのは、あくまでも、個々の人々の人生の豊かさを助ける器のことだ。

全部で433個のリプを雑にカテゴリー分けして、まとめてみた。この後にもおそらくリプが来てる可能性があり、完全に網羅したとは言えない。

カテゴリー分けと言っても、全然厳密なものではない。異論はいくらでもあると思うが、大雑把な印象をつかみたかったので、とりあえずグループを作ってみたというだけのことだ。同じことを違った言葉で表現している人もいるし、同じ言葉で違ったことを意図している人もいると思うが、なるべく出てきた言葉をそのままで列挙して、それを分類した。

下の三つの表には、433個のリプが、以下の9個のカテゴリーに分けて、ただ単に列挙してある。

1)人文科学
2) 技術
3) 自然科学
4) Money/Tax/資格
5) Body/Welfare
6) 社会科学
7) 芸術
8) 外国語
9) 歴史

この表を日がな一日眺めているだけでも面白い。世の中の人はこんなにいろんなことを勉強したいと思っているんだなあと思いながら空想に耽る。とても実用的で具体的なものから(便宜上、以下「実用」と呼ぶ)、日常生活に直結していないものまで(便宜上、以下「教養」と呼ぶ)、その範囲はとても広い。

まずは、以下の三つの表をお楽しみ下さい。

1) 人文科学言及された数2) 技術言及された数3) 自然科学言及された数
哲学 12プログラミング 7数学 11
心理学 7CNC 1建築 7
文学 4CAD 1物理学 6
宗教・宗教学 3Arduino 1化学3
仏教 33Dプリンタ 1金属工学 1
民俗学 23Dデザイン 1金属加工 1
文化人類学 22種電工 1量子物理学 1
人類学 2萌えゲーム 1量子力学 1
発達心理2TOEIC 1農業 1
魂とは 1TCP/IP 1農学 1
輪廻転生 1Symbolic Systems 1看護婦さん 1
色彩心理 1OSと競技のプログラミング並列プログラミング1生物学 1
自然体験 1アメ車エンジンのパワーが上がる組み方 1治水 1
臨死体験 1アマチュア無線技士資格習得 1水産学 1
臨床仏教 1システム管理者 1植木算 1
絶対的真理と相対的真理 1バイクレーサー 1栄養学 1
組織心理学 1バイクメカニック 1幾何数学 1
精神科医学 1ネットワーク技術者 1工業化学 1
社会教育 1データサイエンス 1天文学 1
社会心理 1フライス盤 1土木 1
知りたいな・考えたいな、と思わない・思えない人の精神構造全般 1ラジオとオーディオアンプの電気回路設計 1医学 1
発達障害(学習障害) 1加工技術 1動物の感情や表現・言語 1
異文化 1暗号強度の証明 1光学 1
漢文 1車の修理ガレージ屋 1マクロ言語 1
漢字 1電気電子 1つるかめ算 1
民族移動 1船舶 1がん看護1
比較神話学 1航空機 1カウンセリング理論 1
比較文化 1瓦職人 1お医者さん 1
日本の古典 1旋盤 1DNA1
教育心理 1技術士 1
教育学←アップデート 1排水管水回り関係の修理 1
教育学 1振動と人の身体の関係 1
教育 1大工さん1
戦争の事 1
古文 1
全体主義の起源 1
倫理 1
人文学 1
世の不条理 1
ユング心理学 1
イスラム教 1
認知行動 1
音読1
合計713952
4) Money / Tax / 資格言及された数5) Body/Welfare 言及された数6) 社会科学言及された数
簿記 6福祉学・制度 3法学・法律 14
資格取得 4子育て 2統計学 7
投資 3障害者 1経済学 7
税金 2緩和ケア 1政治・政治経済 6
知的財産 2手話 1社会学 3
会計 2成年後見制度 1憲法 3
ビジネス 2子どもの分野 1金融 2
お金のこと(投資、資産運用、ローンとか) 2国の保障 1地政学 2
Financial Planning 2助産師 1貨幣論 1
資金運用1公衆衛生 1考古学 1
財務分析 1公的年金 1社会科学 1
経理1児童クラブ 1社会の仕組み 1
税理士 1保育士資格習得 1社会 1
株式 1介護 人体の構造 1民法1
年金 1ボディワーク系の勉強 1地理 1
宅建 1ベビーマッサージ 1地方自治体の財政 1
司法書士 1アロマテラピー 1国際法 1
公認会計士1NPO/NGO 1人権 1
保険 1催眠術 1開発学1
LSAT 1世界のお酒1
GMAT 1
行政書士1
合計382455
7) 芸術言及された数8) 外国語言及された数9) 歴史言及された数
美術・美術史学9英語・英会話・英文学 26歴史 17
音楽・音楽史・理論 4語学 20近代史・近現代史 8
アート2中国語 7日本史・近現代史 7
脚本1韓国語 5世界史 3
楽器演奏 1スペイン語 4歴史地理 1
書道 1フランス語 4東アジアの歴史 1
日本美術史 1外国語・外国語会話 3史学 1
日本美術 1ドイツ語 2古代遺跡の研究 1
日本画 1ロシア語 2古代史 1
対旋律 1アラビア語 1世界地理 1
対位法 1イタリア語 1イスラム教の歴史1
声楽 1スウェーデン語 1
和声法 1ヘブライ語 1
和声 1ポルトガル語 1
チェロ 1中国文学 1
イラストレーター 1他言語 1
オーケストレーション 1ブラジルポルトガル語1
インテリアコーディネーター 1
ランドスケープデザイン1
合計318142

見にくいですね。スプレッドシートを直に見たい人は、こちらをどうぞ↓。

そして、言及された数の多い順にカテゴリーを並べ替えると、下のようになった。

カテゴリー言及された数
外国語81
人文科学71
社会科学55
自然科学52
歴史42
技術39
お金 / 税 / 資格38
芸術31
Body/Welfare24
合計433

外国語が輝く第一位。これは日本人の永遠のテーマではないだろうか?これほど ”若い時にやっとけば良かった” ものとして語られ続けるものは他にないと思う。

ここで言及されているのは、英語に限られないのだけど、日本の英語教育は酷いのではなく、何がなんでも英語を使わせないという執念で出来上がったシステムとすれば、ほぼ完璧なものだ。

”若い時にやっとけば良かった”英語というのは、シェイクスピアをオリジナルで読める能力でもないし、CNNやBBCのアンカー並みに小難しいことを流暢に話す能力でもなかったと思う。

ものを食べたり飲んだり、歩いたり泳いだり、屁をこいたりゲップをしたりするのと同じように、自然に英語が使えるようになりたかったということではないか。

正しい食べ方とか、正しい歩き方とか、正しい屁のこき方とかを常に考えていたら、たぶん餓死するか、身動きとれなくなるか、屁で腸は爆発するだろう。

僕自身は英語を教えるスキルなどカケラもないが、英語が屁になるまでの道程についてなら、少しは説明できると思う。そのつもりで、これ(↓)を書いたら、残ったのは笑いだけだったという苦い経験もあるのだけど。

外国語については、予想通りでもあったので、深追いせずに、次に行く。

この言及された数のカテゴリー・ランキングを見て、

おっ

と思ったのは、教養が実用を凌駕している、ということだった。誰にでも現実の生活というものがあるのだから、当然、実用的知識の願望は常にあるだろう。しかし、教養的な願望がこれほどあるというのは、嬉しい驚きだった。

本屋の店頭に並ぶ ”ろくでもない駄本”は、しばしばツイートされるトピックの一つだ。実用・ハウツー・啓発が駄本の大御所だが、そこに似非歴史・似非経済・似非政治・似非医学・似非国際なんちゃら等々が押し寄せ、駄本畑は百花繚乱の状態になっている。

その中には本当に役に立つ真面目な、例えば ”実用書”もあるだろうが、もはやそれを識別するのは不可能なんじゃないかとさえ思う。結局、声の大きいやつ(宣伝力のある出版社)が駄本畑を蹴散らしていく。

簡単に手に入る、こういう知識は、ススキの穂先のように柔らかく、人に優しいかもしれない。でも、季節が過ぎると直ぐに崩壊してしまう。小学生の頃、毎週のように登った近所の五月山にはススキが群生していたので、ススキをよく取った。そこで子供は気が付くのだが、ススキの茎というのは、穂先の柔らかさとは違って、しなやかだけどとても強靭なのだ。そのススキの茎を振り回しながら、五月山の天辺まで登る。それでも、ススキの茎はまだ強情に原型を保っている。

実用的知識は生活に必要なものだ。でも、それはススキの穂先だ。直ぐに消えてしまうこともある。それを支える茎がなければ、人生はそこでやり直しになる。なんの役にも立たないように見える教養は、ススキの茎だ。強靭な茎は振り回されても山のてっぺんまでついてくる。

こんなに多くの大人たちが教養を願望していることを見て、五月山の天辺にある日の丸展望台まで振り回して持って行ったススキを思い出した。

Tips

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