子どもたちが心配だ(Scared for the Children)

自分が子どもだった頃のアイドルがどんどん亡くなっていく歳になるのは、寂しいもんだ。

ほぼ10年ごとに、幸せな時間は強制的に終了させられてきた。ジミ・ヘンドリックス(1970年没)、ジョン・レノン(1980年没)、スティーヴィー・レイ・ボーン(1990年没)、ジョージ・ハリスン(2001年没)…。

去年、1月10日、ジェフ・ベックは突然いなくなった。納得できる死なんてものはないのだろうけど、ジェフ・ベックがこの世からいなくなった衝撃が、いまだにどこにも落ち着かず、行き場がない。作りかけの料理、作りかけのプラモデル、作りかけの砂の城、作りかけの建物、作りかけの何かが、そのまま残されて行ったような気分。しかも、その後を継ぐ人が一人もいない。

ギターの演奏技術の上手い人はいくらでもいるが、ジェフ・ベックの演奏をそのまま真似ることは不可能だと思う。しかも、ジェフ・ベックは常に変わり続けていた。こんなギタリストは他にいない。彼は商業的に媚びるように見られるのが嫌いだったのではないかと思う。彼の技術とセンスを使えば、いくらでも金儲けは出来ただろうが、彼は実験を続けることを止めなかった(それでも莫大な収入があっただろうとは思うが)。

そんなジェブ・ベックにも一般ウケする曲がある。その一つが、Scared For The Children 。この曲で、ジェフ・ベックは、人類の未来を心配している。特に子どもと環境の未来について。この曲に抜擢されたRosie Bonesのボーカルがこの曲にとてもよく合っている。

この曲が収録されたLoud Hailer というアルバムのテーマが、ジェフベック自身の言葉を借りると、以下のようなことらしい。

I really wanted to make a statement about some of the nasty things I see going on in the world today, and I loved the idea of being at a rally and using this loud device to shout my point of view.(「今日、世界で起こっている酷いことについて訴えたかったんだ。そして大きな集りで、こういうラウド・スピーカーを使って自分の意見を叫ぶというアイデアが気に入ったんだ。」

Jeff Beck to Release First Album Since 2010, ‘Loud Hailer’ (ultimateclassicrock.com)

このアルバムは、2016年に発表されたものだが、もし彼が今生きていたら、現実はもっと酷いことになってると思うだろう。この曲の歌詞、メロディ、Rosieのボーカル、ジェフ・ベックのギターの全てが好きでよく聴く曲の一つであり続けていた。

地方自治法の改正だとか、NTT株の売却だとか、SNS規制法だとか、自衛隊業務の民間委託だとか、武器の第三国輸出だとか、そして日本の内閣総理大臣が国賓待遇で米国を訪問するとか、続け様に流れてくるニュースを見ながら、いよいよ日本が取り返しのつかないところへ急加速で突っ込んでいくのを見るようで、思い出したのがこの曲だった。

もう自分の世代はあとは老いぼれて死ぬのを待つばかりという覚悟をするのも難しくないだろう。しかし、子どもたちは?子どもたちは無垢な時代を強制終了させられるかもしれない。

われわれ大人たちは、いったい子どもたちになんてことをしたのか?

訳について:
歌詞を訳すのは「原作を訳す」というよりも、「原作に喚起された創作」という側面がある。正確な逐語訳は放棄して、僕の解釈に基づいて日本語「訳」をつけた。

Scared for the children を「心配する」としたが、scared で元々言おうとしているのは、恐れているということだ。for the children とfor を使っているので、子どもたちのことを思ってと言いたいのだろう。単純に何かを恐れるだけなら、scared by the ghost (幽霊が怖い)のように、scared by になってるはずだ。子どもたちの未来がどうなってしまうのか恐れているということだが、それでは長過ぎるので単に「心配する」にした。

子どもたちの未来を恐れている様子を、ボーカルのRosie は彼女の表情や身振りでとてもうまく表現していると思う。全体を通して、彼女は歌詞に合わせて表情やジェスチャーを変化させるので、それも見どころの一つになっている。

Big boy というのは、一つの決まり文句で、子どもの成長を促す言葉としてよく使われる。自分でなんでもできるしっかりした奴にならないといけないというような文脈で使われるので、大人同士の会話でも、ごちゃごちゃと世話焼き的なことをいう奴がいたら、I’m a big boyなんて返しとして使われる。

Scared for Children 歌詞

Billy skipped school again looking like a fool again

What a little waste for a taste of a big boys life

I’m scared for the children

ビリーはまた学校をサボった。

一人前の男の子の人生を味わいたいがために、なんともったいないことだろう。

子供たちが心配だ

Computer screens and magazines

Manufactured hopes and dreams

Playing in a concrete box cause mother’s got her shows to watch

I’m scared for the children

コンピューターの画面と雑誌

作られた希望と夢

コンクリートの箱の中で遊んでいる。お母さんは見なきゃいけないショーがあるので。

子供たちが心配だ

This is the end of the age of the innocent

One more game before they go

This is the end of the age of the innocent

What will we leave them with

Suppose we’ll never know

無垢な時代の終わり

その前に、もう1ゲームだけ

無垢な時代の終わりだ

私たちは子供たちに何を残すのか

たぶん私たちには絶対に分からない

Processed greens and man made meat

Running out of things to eat

Little boys having way too much fun playing with a big boys gun

I’m scared for the children

加工野菜と人工肉

食べるものがなくなっていく

小さな男の子たちにとって、一人前の男の子たちの銃で遊ぶのことは楽しすぎる

子どもたちが心配だ

And on the day the last bird dies

There won’t be a drop from their big square eyes

An old man with his eyes just like glass

Kisses the last blade of grass

I’m scared for the children

最後の鳥が死ぬ日

彼らの大きな四角い目からは、一滴の涙もこぼれないだろう

ガラスのような目をした老人が

最後の草にキスをする

子供たちが心配だ

No respect for anyone

Why would they after what we done

What an example we have set, what a planet we have left

Let’s be there for these children

尊敬できる人なんていない

私たちがしてきたことを思えば、彼らが私たちを尊敬などするわけがない

私たちはなんたる模範を作り、なんたる惑星を残したのか

子供たちのために残そう

投げ銭

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