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(11,708字)
- 江 学勤(Jiang Xueqin)
- イラン戦争が伝わらない日本
- 江教授のアプローチ
- ジャーナリズムの死
- 世界全体のレジーム・チェンジ
- 終末論(Eschatology)
- ピアース・モーガンによる江教授インタビュー
- イントロダクション
- ペトロダラーの終焉
- 世界経済の基盤の崩壊
- GCC生存への脅威
- 終末論
- キリスト教シオニスト
江 学勤(Jiang Xueqin)
今、英語圏メディアの政治系トーク番組で最も頻繁にゲスト出演している1人は間違いなく、Jiang Xueqin/江学勤だろう。Professor Jiang(プロフェッサー・ジアン、江教授)と呼ばれている。彼は、日本風に言えば、今引っ張り凧と言ってもいいと思う。
江教授は、中国系カナダ人で、ネイティブのEnglish speaker ではない。かなり中国語訛りのきつい英語で喋るので、生粋の土着English speaker にはなかなか手強いと思うが、彼と話すキャスター達はもうみんな慣れたのか、江教授は英語メディア界にしっかり溶け込んでいる。それでも、YouTubeの自動聞き取り(Transcript)は、江教授の発言部分がメチャクチャになっている。しかし、英語はそんなものだ。何十種類もの訛りのスタッフと同じ部屋で仕事していたが、そういう環境では全ての訛りに早く適応したものが勝ちだった。他人の発音がどうとかこうとかウダウダ言ってるものは、loserになる。
江教授は、イェール大学で英文学を学び、のちに中国で教育改革や中等教育に関わってきた人物で、現在は北京の Moonshot Academy (リベラルアーツ型の私立高校)で教えている。210万人がサブスクする、自分自身のYouTubeチャンネルPredictive Historyで有名な人だが、この数年の追っかけられぶりは、①「第47代アメリカ大統領にトランプが再選」されること、②「アメリカがイランに戦争を仕掛ける」こと、③「イランにアメリカが敗北する」ことを予測したことで注目を集めたからだと思われる。最初の二つは的中し、③の「イランにアメリカが敗北する」は現在進行中なので、メディアが彼を追いかける。
彼は、江教授と呼ばれているが、実際の大学教授ではない。この「教授」というのは、言わばニックネームのようなものと考えた方が良い。坂本龍一が「教授」と呼ばれていたようなものかもしれない。つまり、彼はアカデミズム本道のガチガチの学者ではない。教育者であり、評論家であり、ネット言論人に近い位置にいる。彼が、議論を緻密に組み立てるところは、非常にアカデミックなのだが、体制内アカデミズムの学者なら、パチモンと思われることを恐れて踏み込まない領域へ自由に入っていくことが江教授の議論の魅力になっている。
イラン戦争が伝わらない日本
米国・イスラエルによるイランに対する武力攻撃で始まった戦争を『イラン戦争』と呼ぶのは、『イラク戦争』や『アフガニスタン戦争』と同様に、戦争を始めた主体を隠す欧米メディアの術中にまんまと嵌まるようで、非常に躊躇するが、我々が慣れきった、その企みを晒す意味もあるかと思い、以下、『イラン戦争』と表記する。
そのイラン戦争がいったいどこへ向かうのかという問いは、今、英語圏メディアの政治系トーク番組で一番注目される主題の一つにであることは疑いがない。YouTubeの日本語チャンネルでも、毎日何本もそんな動画が上がっている。しかし、このOverseas シリーズを始めたきっかけと関連することだが、同じ戦争について語っているはずなのに、いったい何の話をしているのかと思うことがあるくらい、議論の様相が英語圏メディアのトーク番組とはかけ離れている。
出てくる人の学識のレベルが全然違うと言ってしまえば、それまでなのだが、そういうアカデミズム世界における上下の序列は問題の本質ではないだろう。英語圏でよく見る人のキャリアを改めて見てみると、決定的な違いは、「世界との接点」ではないかと思える。学者でも実業家でも弁護士でも政治家でもタレントでもインフルエンサーでも何でもいいのだけど、日本語番組に出てくる人が話すことがいつも何か「外した感」を出してしまうのは、結局、世界の野次馬でしかないからではないか。長谷川唯がすごいとか、大谷翔平がすごいとか言うファンの立ち位置で世界を語り、戦争を語る。
世界の出来事の中で話す人と外で話す人、プレイグラウンドで話す人と観客席で話す人、中にいる人と外にいる人という比喩が通じるかどうか分からないが、それは傍に置いて、最も大きな問題は、話している人そのものではなくて、彼らの言動がほぼ唯一の情報源となり、それによって多くの日本人の世界観が形成されてしまうことだろう。
【英語圏のトーク番組によく出てくる人たち】
・シカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授(Professor John Mearsheimer)
・コロンビア大学のジェフリー・サックス教授(Professor Jeffrey Sachs)
・テヘラン大学のモハンマド・マランディ教授(Professor Mohammad Marandi)
・元CIA分析官レイ・マグガバン(Ray McGovern)
・元CIA分析官・国務省対テロ担当官ラリー・ジョンソン(Larry Johnson)
・元MI6中東分析官アラスター・クルック(Alastair Crooke)
・元米国海兵隊情報将校・元国連イラク武器査察官スコット・リッター(Scott Ritter)
・元米国陸軍大佐ダグラス・マグレガー大佐(Col. Douglas MacGregor)
・元米国空軍中佐のビル・アストア中佐(Lt. Col. Bill Astore)
・元CIA工作員のフィリップ・ジラルディ(Philip Giraldi)
・元米国空軍中佐・イラク戦争期国防総省のカレン・クウィアトコウスキー中佐(Lt. Col. Karen Kwiatkowski)
・元米国海兵隊将校・国務省職員(アフガニスタン)/アフガン戦争に抗議して辞任したマット・ホー大尉(Captain Matt Hoh)
・元米国陸軍大佐・元 国務長官 Colin Powell の首席補佐官のローレンス・ウィルカーソン大佐(Col. Lawrence Wilkerson)
・元米国陸軍中佐・アフガニスタン戦争の現場の実態と公式発表の乖離を国防総省に報告したダニエル・デイビス中佐(Lt. Col. Daniel L. Davis)
お笑いタレントから学者まで、世界との接点が極限まで限られた(あるいは全く無い)人たちが語る長閑な世界と、上記のような人たちが語る世界の間の距離は途方もなく大きい。それが聴衆の世界観に大きく影響を及ぼすことは避けられない。だから、日本の政治家だけが世界から外れてるかのように批判するのは、都合が良過ぎる。それは、80年以上前の戦時中、日本軍の戦果を提灯を持ち出して祝った一般庶民が、戦後になると「悪いのは軍部だ」と言うのと変わりない。上から下まで、右から左まで全てを含む問題があるというべきだろう。
観客席の評論家の話を聞くのを止めるまで、この喜劇的な循環と、その悲劇的な展開は終わらないだろう。考えることを止めた人間には、それ相応の罰が待っているという実に陳腐な話なのだが。
江教授のアプローチ
アメリカとイスラエルがイランを攻撃したことによって、その影響は全世界で人間の生活のあらゆる側面に広がっている。それぞれの分野の専門家が詳しく説明し、その波紋が広がっているが、江教授はどう見ているのだろうか?
江教授はいろんなトーク番組やインタビューでそれを話している。ただ、インタビューアーの質問の仕方や、トーク番組の話の流れで、彼の考えは断片化され、必ずしも統一的な一般理論のような形を取らない。彼は、明らかにシステム分析の観点から物事を見て、インセンティブ、権力構造、歴史的パターンに注目し、紛争がどのようにエスカレートするかをモデル化している。これはまさにゲーム理論や予測モデリングの方法そのものなのだが、だからこそ、彼が話の途中で何度も他のスピーカーに中断されると分かりにくくなる。
さらに江教授は、抽象化に耽溺しているわけではない。軍事史家が繰り返し持ち出すベトナム、アフガニスタン、イラクなどの例を基礎にして、消耗戦、人的資源の限界、政治的意思についても語る。つまり、彼は一種のオタクのように周縁的な議論に終始するわけではない。歴史から、戦争の構造的な現実を取り出そうとする。
戦争を単に技術や軍事予算の観点から語る人は、英語圏でも日本でもいるが、江教授は、それを、持久力、兵站、そして政治的な結束に分解して意味のある要素として再統合する。ここまでは、床屋政談やSNSに無数に現れる軍師とは異なるものの、体制内アカデミズにいる伝統的な学者とあまり変わらないとも言える。
江教授の議論が注目され、あるいは物議を醸し始めるのは、彼がイラン戦争のイデオロギー的動機、宗教的物語、影のネットワーク、そして終末論といった領域へ、躊躇なく平気で踏み込む点だ。彼は伝統的学者が陰謀論として距離を取ろうとする要素を伝統的アプローチに接合する。江教授自身は、①ゲーム理論(game theory)、②歴史的パターン(historical pattern)、③終末論(Eschatology)の3方向からアプローチしていると説明している。
ジャーナリズムの死
この記事の一番下に、ピアース・モーガンによる江教授のインタビューの日本語訳を載せるが、彼が話している多くの動画の中でこれを選んだ理由の一つは、そこで現代欧米ジャーナリズムの実に興味深い姿が見られるからだ。江教授がイラン戦争の終末論的背景の議論に進んだ瞬間、モーガンは、それを不快なものと感じたのだろう、突然突き放すような態度に変わり(かなり失礼に見える)、話を早々にまとめてインタビューを終了してしまった。これは、モーガンが既存の権力構造の安定性に疑問を投げかけることをどれほど恐れているかを表していると見える。本来なら、インタビューアーは、江教授の理論に賛成であれ反対であれ、前提を掘り下げ、証拠を求め、視聴者自身に判断を委ねればいいのだ。
世界全体のレジーム・チェンジ
話を元に戻すと、アメリカはイランのレジーム・チェンジ(政権転覆/体制転換)をイラン攻撃の目的として表明することがあるが(実際の目的がなんであるか自体が現在の議論の一つの主題になっている)、江教授がイラン戦争の行方に見ているのは、彼の議論をまとめると、皮肉なことに、アメリカを含む「世界全体のレジーム・チェンジ」と言える。
江教授の議論を要約すると、
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