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この記事は、ケイトリンさんのいくつかのSNSでの投稿のコレクションになっている。
最初のトピックが、タイトルになっているトランプのガザの住民に対する威嚇的な声明文についての話だ。これは言うまでもなく、「中東のリビエラ計画」の一貫として考えるべきものだ。トランプの考えはなんども表明されているが、ガザはもうボロボロだ、あんなところに人間は住めないだろう、解体して一から作り直すしかない、だからみんな出ていって、作り直そうというものだ。これが「リビエラ計画」とメディアが呼ぶものだ(トランプがそう名付けたわけではない)。
これにはいくつかの大きな問題がある。
◾️出ていくといっても、いったいどこへ?彼はヨルダンとエジプトにガザのパレスチナ人の受け入れを頼んでいる。その他のアラブ諸国にも声をかけているという報道もある。彼らはもちろんこのトランプのアイデアを快く思っていない。
◾️作り直すといっても、莫大な費用がかかる。トランプはアメリカ政府はその費用を出さないと言っている。では、イスラエルが出すのか?他のアラブ諸国が出すのか?また、ヨーロッパ諸国が出すのか?何もはっきり決まっていない。
そもそもトランプはなぜ「リビエラ計画」などというものを出してきたのか?
彼はこれが戦争を止めるための名案だと思っている。これでイスラエルによるパレスチナ人の虐殺は終了すると考えているのだ。彼はしばしば戦争忌避の発言をする。殺し合いを止めたいという発言だ。それに対して、いくつかの反応がある。①一つは、それはジェスチャーだけだというもの、②ノーベル平和賞を取りたいからというもの、③トランプの個人的な心理ブロックが働いているというもの、などだ。
①は、今の所、実際トランプはウクライナとガザの両面で戦争を止めるために働いているので、「どうせジェスチャーだけ」という根拠がない。今後、何が起きるか分からないが、「どうせジェスチャーだけ」は、トランプが戦争を始めた時に、言えることだろう。
②のトランプがノーベル平和賞を欲しがっているというのは既に定説になっているが、トランプ自身が直接「ノーベル平和賞を欲しい」と明言した記録はない。ただし、この説にはいくつかの根拠がある。
2019年2月15日のホワイトハウスでの記者会見で、トランプは「安倍晋三首相が私をノーベル平和賞に推薦してくれた」と発言し、その手紙を「最も美しい書簡」と称賛していた。日本人からすると、プッと吹いてしまうような話だが、トランプが無邪気に喜んだ姿は想像がつく。
実際、トランプはノーベル章を受賞できなかったのだが、同年9月23日には、ニューヨークで記者団に対し、「もし選考が公平だったなら受賞していただろう」と述べ、受賞できなかった悔しさを漏らしていた。
トランプをノーベル平和賞に推薦したのは、安倍首相だけではない。2020年にはイスラエルとアラブ首長国連邦(UAE)の国交正常化(アブラハム合意)を仲介したことを理由に彼はノーベル平和賞候補に推薦された。トランプはツイッターでその事実を喜んで共有していた。
このような逸話を見る限り、トランプがノーベル平和賞を意識していることは事実のように思われる。
時事通信が2025年2月22日に配信した記事では、マイケル・ウォルツ(Michael Waltz)大統領補佐官(国家安全保障担当)は、「ロシア・ウクライナ戦争の終結をトランプ氏が実現した場合にノーベル平和賞に値すると述べた」と報道されている。側近も煽るくらいだから、トランプのノーベル平和賞受賞は意識にあるのだろう。ただ、ノーベル平和賞が欲しいという理由だけで、戦争の終結にこれほど熱心に動くだろうかとも思う。
③のトランプの心理的側面については、むしろまったく逆にトランプは残酷だというような意見の方がよく目につく。だから、これはまったく個人的な直感に過ぎないと断っておく。僕はトランプが演説やインタビューで話している時の、表情や身振りそぶり、感情の高揚や興奮の仕方とその落ち方のサイクル、そしてジョークの入れ方などをもう10年ほど見ていて、この人には戦争に対する、あるいは人が殺されることに対するメンタルなブロックがあると思うようになった。
なぜそうなのか、説明のしようがないので、誰も説得するつもりはないが、僕は若い頃、戦争とその中での人間の反応を15年くらい見てきて、人間の持つある特殊な反応に敏感になり過ぎる傾向があるかもしれないと意識している。心の底に出来た固いしこりのようなものがなんらかの刺激で作用する時、人間の表情に微妙な変化が現れる。出来ることなら、人間はそういうものを持たずに一生を終えられたら良いと思う。が、世の中はそんな幸運な人ばかりではない。
話を元に戻すと、トランプの「リビエラ計画」なるものは、絶対的に避けるべきものだ。これを推進する限り、ノーベル平和賞は絶対にとれないと誰かがトランプに教えてやるべきだ。
◾️これは国際法違反だという人がいる。もちろん、そうだ。ジュネーブ条約に違反する。しかし、それは小さな問題だ。
◾️これはシオニストの陰謀の一つだという人もいる。それもそうだろう。しかし、それは小さな問題だ。
◾️これは土建屋のトランプがガザ開発事業で儲けるためだという人もいる。それもそうかもしれない。しかし、それは小さな問題だ。
◾️これは口先だけでパレスチナ人を守るために何もしてこなかったアラブ界の動きを誘導するトランプのディールの駆け引きの一部だという人もいる。それもそうかもしれない。しかし、それは小さな問題だ。
「リビエラ計画」の本質的問題は、人間と歴史、文化、社会、共同体それら全てが一つの有機体として存続している生命を破壊することにある。人間の社会はレゴのブロックでできているわけではない。バラバラに壊せば死んでしまう。ブロックをもう一度集めても再構築しても、その総体の生命は戻ってこない。その人間と社会に関する理解がトランプには完全に欠けている。
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今回のケイトリンさんの記事は、今世界中のSNSで起きている大騒ぎに現れる、属人的な擁護か批判かという二項対立に埋没して、起きている事実を一つずつ個別に評価できなくなっている大群を見ている。その結果は、圧倒的な知的破綻だ。
トランプ大好き族が、プーチンは悪魔なので、トランプの進めるウクライナ停戦に断固反対する。彼らにとっては、プーチン憎しが最高位にあり、トランプ大好きはその下位にあるのだろう。どっちにしても、殺し合いを止める方法を考えるという現実的に最重要な課題は彼らの思考の中に居場所はない。
トランプ大嫌い族は、トランプのすることは全て悪なので、トランプの進めるウクライナ停戦に断固反対する。彼らにとっては、トランプ憎しが最高位にあり、政党活動を禁じ、言論の自由と宗教の自由を奪い、政府高官が汚職まみれで私腹を肥やし、国民を強制的に戦場に送り、残忍なネオナチの拡大を進めるウクライナを支持して援助することには何も痛みを感じない。「トランプが嫌い」で全てが許される。
前者はネトウヨに、後者はリベラルに蔓延している態度だが、結局彼らには、自分が情緒的快楽を得られるかどうかという感情の奴隷になっているだけで、一貫した論理も思想も何もない。
ケイトリンさんが示唆していることはたくさんあるが、あとは直接読み取って欲しい。
[原文情報]
タイトル:Trump’s Demented Gaza Threats, And Other Notes From The Edge Of The Narrative Matrix
著者:Caitlin Johnstone
配信日:MAR 06, 2025
著作権:こちらをご覧ください。
原文の朗読:こちらで聴けます。
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