The World We Live

上の写真は、去年12月、少数の親しい友人たちの前でエリック・クラプトンと彼の仲間たちが行ったコンサートの時の写真。この時、エリック・クラプトンは、パレスチナの旗の色を施したギターで登場した。

このコンサートは録画されて、2024年1月17日、To Save A Child—in aid of the children of Gaza(ガザの子供達を救うために)という名のチャリティコンサートとして全世界にオンライン配信された。Voice of A Child はそこで発表された。

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Voice of A Child

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ミュージシャンがチャリティ・コンサートをすることは珍しくない。僕の記憶に残っている最初のチャリティ・コンサートは、1971年にジョージ・ハリソンが行ったThe Concert for Bangladesh だ。ジョージの友人のエリック・クラプトンもこのコンサートに出ている。他にもラビ・シャンカール、ボブ・ディラン、リンゴ・スター、ビリー・プレストン、レオン・ラッセルなんかが出ていた。

2枚組か3枚組だったか忘れたが、とにかく高価なレコードだった。中学生の自分のお小遣いではとうてい買える額ではなかったので、これを買うとバングラデシュのためになるから重要なのだとかなんとか言って、母に買ってもらえるように説得を試みたが、もちろん無視された。

その頃はまだスマホがあるわけでなく、インターネットもなく、いや、そもそもパーソナル・コンピュータも無い時代だったので、中学生の僕がすることと言えば、サッカーをするか、ギターを弾くか、本を読むくらいのことしかない素朴な時代だった。結局、バングラデシュ・コンサートのレコードは、本物のギブソン・レスポールを持ってる裕福な友達が買ったので、そいつにレコードを借りて、「おかん、静かにしといてや」と言ってカセットレコーダーに録音して全曲鼻歌を歌えるくらい聞いた。ライン録音なんて概念はまだ庶民の人類史には登場していなかった。

コンサートではなかったけど、1985年に発売された We Are The World – USA for Africa はとても強く印象に残っている。参加ミュージシャンの多さ(40人くらい)と豪華さが強烈だったが、曲の出来の良さが飛び抜けていたと思う。クインシー・ジョーンズがプロデューサーとなり、作詞・作曲をマイケル・ジャクソンとライオネル・リッチーが担当したのだから、こんな凄いものが出来ても当たり前なのかもしれないが。

このビデオ・クリップが印象深く記憶に残ってるのは、ある情景のせいだ。大阪の心斎橋にあったヤマハの店頭に当時としては珍しい大画面のスクリーンがあったのだが、そこでそれが繰り返し上映されていた。その情景全体が、毎日飲み歩いて「これから先いったい自分はどうするんだ」的な自分に何か突き刺さるものがあったからだ。

その頃の日本は、猛烈な勢いで成金大国に突き進んでいた。今からでは信じられないが、世界金持ちランキングの頂点に立つ寸前であったと言える。日本全体が浮かれていた。しかし、その日、僕が見たのは、崩壊寸前まで泥酔して、ヨレヨレになったねずみ色のスーツを着た若い一人のサラリーマンらしい男だった。その男はヤマハのスクリーンを見上げて、USA for Africa のリズムに合わせてゆらゆらと揺れていた。それから、もう40年くらい経つのにその情景が妙に鮮明に記憶に残っている。

世界のどこかに餓死する人がいて、金持ち国のミュージシャンがそれを救う名目でレコードを作り、日本は史上最高のお金持ちに向かって猛然と突き進み、おそらくは僕と同年代であろう若者がその進軍の一員となって、ヨレヨレの姿でミュージシャンの姿に魅入っている。

それから数年後、日本が本当に実質的に世界一の金持ちの座に上り詰めた頃、僕は南太平洋の小さな島に一人で行った。野生のライムやグレープフルーツを取り、漁師に魚を分けてもらい、自分で貝をとって食べる小さな小屋の生活は新鮮だった。もう日本のあの狂乱に戻る気がなくなった。帰国して直ぐに、大学院の指導教授に日本を出ますと伝えた。

『カブール・ノート』にリアリティの喪失について、しつこく書いているが、単純にまとめると、ヤマハの店頭にあったスクリーンのこちら側とあちら側に分けられた世界のどちらに自分を置きたいかという決断をせざるを得なかったのだと思う。こちら側に身を置き、徹底的に外野であり、観客であり、決して痛みを感じない評論家であり続けるのか、あちら側に行き、一人のプレーヤーとして現実の一部となるのか。

ウィキペディアを見ると、1971年から2022年の間に50個のチャリティ・コンサートが列挙されていた。そのリストに、パレスチナのためのコンサートはなかった。

We Shall Overcome (Song for Palestine)

14年前、ピンク・フロイドの創設者の一人であるロジャー・ウォーターズは、”We Shall Overcome(Song For Palestine)”を発表した。”We Shall Overcome” は、60年代のアメリカで公民権運動の中で頻繁に歌われた歌だ。ピート・シーガーやジョーン・バエズによって歌われ、やがて日本でも上條恒彦、小室等、高石ともや等が取り上げ、反戦運動や社会運動を行う人たちによって歌われた。ロジャー・ウォーターズがこの歌を録音した2010年といえば、それから半世紀後だ。何故ウォーターズがこの歌を録音したのかを彼自身が語っている。

2009年から2010年にかけて、42カ国から1500人の男女からなる国際的なグループがエジプトに行き、ガザへのフリーダム・マーチに参加した。

これは、現在のガザ封鎖に抗議するためである。ガザの人々が事実上の監獄に住んでいるという現実に抗議するためだ。 イスラエル軍によるテロ攻撃で家屋、病院、学校、その他の公共施設の大半が破壊されてから1年、国境が閉鎖されているために再建の可能性がないことに抗議するためだ。

フリーダム・マーチに参加する人々は、ガザのパレスチナ人住民の苦境に平和的に注意を喚起したかったのだ。エジプト政府(私たちアメリカの納税者が年間21億ドルもの資金を提供している)は、行進者たちがガザに近づくことを許さなかった。なんとお粗末なことか。そして、なんと分かりやすい!

私はアメリカに住んでいるが、2009年12月25日から2010年1月3日の間、ガザやフリーダム・マーチ、そしてそこに集まった多国籍の抗議者たちについてメディアは一切触れなかった。とにかく私は、このような状況の中で、”We shall overcome “の新バージョンを録音しようと思ったのだ。

ロジャー・ウォーターズ

Mayday…….M’aidez

ロジャー・ウォーターズは、約20年間イスラエルのパレスチナに対する残虐な行為を非難し続けて来た。彼のYouTubeチャンネルでの最新の動画のタイトルはMayday(遭難信号)だ。

メーデーというのは、自力救済が不可能になった時に発する、助けを求める信号だ。ロジャー・ウォーターズは、20年間、コンサートをし、インタビューに答え、公の討論会で発言し、パレスチナ人のための曲を作り、SNSを利用し、パレスチナへ世界の注意を引こうとしてきたが、ほぼ無視されてきた。そして、とうとうイスラエルは、パレスチナ人を地上から完全に抹殺しようとする”最終解決”を実行し始めた。お手上げではないか。そして、彼は今「メーデー、メーデー、メーデー」を発する。

それでも、大手メディアは完全無視を決め込む。あの音楽史上に永久に残るであろうピンク・フロイドの創設者の声さえ封印される。

40人を超える超有名ミュージシャンが一同に集まってアフリカの人達のために一曲を録音する時代から遠いところへ来てしまったのだ。ドナルド・トランプを公に攻撃した勇敢なセレブリティ達さえも沈黙を強いられる。スーザン・サランドンはパレスチナ人の虐殺を非難し、所属事務所をクビになった。

セレブリティたち、有名なアーティストたちは、弾圧を恐れ、ブラックリストに載ることを恐れ、反ユダヤ主義者のレッテルを貼られることを恐れている。それでもジョー・バイデンと議会に対して、停戦を求める手紙に署名した人々の数、そして署名した有名人の質の高さには驚くべきものがある。自分のキャリアを棒に振るかもしれないという恐怖に打ち勝つ勇気がなければ、非常に単純な善、つまり”無実で無防備な人間の虐殺は止めるべきだ”ということを発言出来ないという世界では、自由も平等も民主主義も虚構に過ぎない。

ある記事に、カリフォルニア州のユダヤ教の聖職者の言葉が載っていた。この人は、反戦抗議活動を一貫して行っているスーザン・サランドンと話をし、仕事がなくなるかもしれないのに、そのような活動を続ける彼女の勇気に非常に関心した。

「しかし、ガザで、朝起きて、子どもたちと一緒に一日を過ごすのに必要な勇気には到底及ばない」と述べている。(1)

発言することによって被るかもしれない不利益と、パレスチナ人が直面している生存の危機を比較することは、人間の生に対してあまりに冒涜的なことだ。しかし、それが通じない愚かな世界に今、我々は生きている。

イスラエルによるパレスチナ人の虐殺に対する抗議を表明したセレブリティ達

Roger Waters, Eric Clapton, Bella Hadid, Mohamed Elneny, Selena Gomez, Natalie Portman, Mohamed Aboutrika, Miriam Margolyes, Mark Ruffalo, The Weeknd, Dua Lipa, David Clennon, Susan Sarandon, Melissa Barrera, Bradley Cooper, Alfonso Cuarón, Janelle Monáe, Lupita Nyong’o, Jenna Ortega, Joaquin Phoenix, Mark Ruffalo, Mark Rylance, Donzaleigh Abernathy, Kieren van den Blink, Angelina Jolie, Bella Hadid, Imaan Hammam, Indya Moore, Stormzy, Macklemore, Gigi Hadid, Cynthia Nixon, Kehlani, Huda Kattan, Riz Ahmed, Ramy Youssef, Mo Amer, Simi Haze, Bassem Youssef, Yara Shahidi, Lowkey, Belly, Elyanna, Renée Rapp, Ramy Youssef, Billie Eilish, Finneas, Nicola Coughlan, Pedro Pascal, Jesse Williams, Khalid Abdalla, Hunter Schafer, Lena Headey, Quannah Chasinghorse, Ava DuVernay, Hozier, Kehlani, Mahershala Ali, Melissa Barrera, Sara Ramirez, Annie Lennox, Rachel Zegler, Amerie, Macklemore, Boygenius, Kid Cudi…

注:もちろんこれが全てではない。バイデンと米議会への抗議文には260名のセレブリティ達が署名したし、それ以外にも多くのセレブリティ達がなんらかの形でイスラエルによる虐殺を非難を公に訴えている。日本でも知られていそうな人は太字にした。

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