【Overseas-45】トランプ、「権力の限界は『自分自身の道徳』だけだ」と語る

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[15,493字]

2026年1月8日、ニューヨーク・タイムズ紙に、「Trump Lays Out a Vision of Power Restrained Only by ‘My Own Morality’」という記事が掲載された。これはニューヨーク・タイムズ紙の4人のホワイトハウス担当記者たちが大統領執務室でトランプ大統領にインタビューを行い、それを記事にしたものだ。インタビューの記録を一字一句書き起こしたものではない。トランプ自身の言葉を大量に引用しているが、ニューヨーク・タイムズ紙の意見は表明されていない。むしろトランプのあまりに率直な語りを淡々と引用し要約することに大きなメッセージ性があると考えたのかもしれない。

ニューヨーク・タイムズ紙に関しては、リベラル、あるいはレフトというイメージを持っている人もいるだろうが、10・7以降のパレスチナ報道ではシオニスト寄りの偏向が大きく批判された。これに関しては、以下の記事に詳しく書いたので、ここでは繰り返さない。

ドナルド・J・トランプという人物をなんらかの思想的枠組みに当てはめて理解しようとする試みはことごとく失敗していると私は思っている。MAGA創始者でありながら、非MAGA的な言動でMAGA支持者の反感を買い、ネオコンを罵倒しながら、ネオコン的行動を起こす。それは彼がしょっちゅう気が変わるからではなく、そもそも彼は出来合いの思想的枠組みに従って行動しているのではないからと見るのが自然だろう。

しかし、彼にも一貫して変わらないものがある。それは強烈な自己愛性パーソナリティだ。彼の立ち居振る舞いや言葉に表れている激しい賞賛欲求や傲慢さは常に変わらない。思想はないが自己愛はある。そんな人間が大統領になると何が起きるのかということを我々は今見ているのかもしれない。ニューヨーク・タイムズ紙のインタビューに現れたトランプ大統領の言葉を読んでいると、彼はまるで自分の思想的空洞を自己愛で埋めているように見える。

以下、ニューヨーク・タイムズ紙の記事を8節に分割し、小見出しをつけ、その日本語訳をグレー背景の中に太字で入れた。私自身の注釈・解題・蛇足は、それぞれの節の直後に挿入する形式にした。

目次

  1. トランプ、「権力の限界は『自分自身の道徳』だけだ」と語る
    • ⒈トランプを止めることが出来るのは、トランプ自身の道徳心だけ
    • ⒉強さこそすべて
      • 非勢力均衡論(Balance of Power)
      • 反乱法の危険性
    • ⒊予測不能性から強制外交へ
    • ⒋肥大化する自我と野心
    • ⒌不動産としてのグリーンランド
    • ⒍西側の守護者とは
      • セシル・ローズ
      • ジョゼフ・チェンバレン
      • ジュール・フェリー
    • ⒎核軍縮・中国・台湾をめぐる認識
    • ⒏戦争権限
      • 戦争権限法について
      • 関税かライセンス料か

トランプ、「権力の限界は『自分自身の道徳』だけだ」と語る

Trump Lays Out a Vision of Power Restrained Only by ‘My Own Morality’
2026年1月8日、ニューヨーク・タイムズ紙

⒈トランプを止めることが出来るのは、トランプ自身の道徳心だけ

トランプ大統領は水曜日の夜、自身が最高司令官として持つ権限は「自分自身の道徳心」によってのみ制約されると述べ、軍事力を用いて世界各国を攻撃・侵攻・威圧する能力について、国際法やその他の制約を事実上退けた。

ニューヨーク・タイムズの広範なインタビューで、世界規模で行使する権力に限界はあるのかと問われると、トランプ氏はこう答えた。
「ある。たった一つだ。自分自身の道徳心だ。自分の考えだ。それだけが、私を止められる唯一のものだ。」

さらに彼はこう付け加えた。
「国際法なんて必要ない。人を傷つけたいわけじゃない。」

政権は国際法を順守する必要があるのかとさらに問い詰められると、「必要だ」とは答えたものの、その制約が米国に適用されるかどうかを判断するのは自分自身だという考えを明確にした。
「国際法の定義が何かによる」と彼は述べた。

The New York Times, JAN 08, 2026

記事の最初の一節がこれだ。これが世界最大の軍事力を持つ国の大統領の言葉であるというのは驚愕するべきことなのだが、もはや我々はトランプのこういうところに“慣れて“しまっているかもしれない。

彼は、「国際法は必要ない」とあっさりと言っている。いったん「必要だ」とは言ったものの、「それが米国に適用されるかどうかは自分が判断する」と言う。つまり、彼は国際法を拘束規範の位置から、単なる参照資料に格下げしている。おそらくトランプ大統領は国際法がなんであるかなど限られた知識しか持っていないだろうし、そんなことは取るに足らないことなのだ。その結果、何が起きるか。米国の武力行使の合法性の判断が、これまでに積み上げられた国際社会の規範制度から切り離されてしまうということだ。それが今起きていることを説明する。

⒉強さこそすべて

軍事・経済・政治のあらゆる手段を用いて米国の覇権を確立する自由についてのトランプ氏の自己評価は、彼の世界観をこれ以上ないほど率直に示すものだった。その核心にあるのは、法や条約、国際慣行ではなく、「国家の強さ」こそが、国家間の衝突において最終的な決定要因になるべきだという考え方である。

彼は国内においては一定の制約が存在することを認めた。もっとも同時に、自身が嫌う制度を罰し、政敵に報復し、州や地方政府の反対を押し切って州兵を都市に投入するという、最大限主義的(maximalist)な戦略を追求している最中でもある。

The New York Times, JAN 08, 2026

この部分は、記事中にも書かれているように、トランプ大統領の世界観を非常に明確に表している。一般人の社会にも、いわゆるマッチョな社会はいくらでもある。「強さ」を単一の価値の尺度として見做している社会だ。但し、それは外縁が明確で閉ざされた社会で、その外の社会とは区別される。格闘家は、彼らの価値基準を一般人に適用して暴力を振るったりしない、ヤクザは素人さんを相手にしない(本来は)、というような棲み分けが存在する。ところが、トランプ大統領は、この「強さ」という単一の価値基準を国際社会全体に適用している。それが全ての衝突は、「力」で決するべきだという信念になる。

非勢力均衡論(Balance of Power)

トランプ大統領の「力こそ全て」という信念は、一見すると、20世紀前半に理論化された Balance of Power(勢力均衡)論のように見えるかもしれない。勢力均衡論を唱えた古典的リアリストの論理は、国際社会には上位の統治者がいない(無政府状態)、故に法や規範ではなく、力(power)が現実を決めるというものだ。この点においては、トランプの「力こそ全て」という信念と同じように見える。

しかし、決定的に違う点がある。古典的リアリストが考えたのは、単独覇権は不安定である、力が集中しすぎると、他国が連携して対抗する。したがって、均衡(balance)を保つことこそ、戦争回避を達成するということだった。つまり、古典的リアリストは「理想としての平和」ではなく、「現実的に(realistically)維持可能な平和の条件」を真剣に考えた思想家たちだと言える。彼らが到達する結論は、均衡の維持であり、そのための抑制であり、その制度化であった。国際連盟や国際連合の創設は理想主義の具現化のように見られがちだが、その一方で古典的リアリストたちが考えた勢力均衡論の制度化という側面も持っている(この点について、これ以上深入りすると長くなり過ぎるので、これ別稿にする)。

それでは、トランプの思考は勢力均衡論と何が違うのかということだが、
⑴トランプは、均衡を作ろうとしない、むしろ圧倒的優位を目指し、取引によって屈服させようとし、威嚇によって従属させようとする。これは「均衡」ではなく、「支配(dominance)」を志向している。

⑵20世紀前半の勢力均衡論は、外交官、軍部、官僚機構、同盟システムといった制度的プレイヤーを前提にしていた。そして、力(power)は、国家装置の計算と制度的プレイヤー間の相互作用の結果として現れていた。

しかし、トランプの場合、制約は「自分の道徳」だけだと明言している通り、力の行使判断を制度から切り離し、個人の内面に還元している。これは勢力均衡論が志向した制度化とは全く真逆に主権を人格化した(personalized sovereignty)考え方だと言える。

⑶勢力均衡論は本質的に、力をどう抑制するかの理論であり、抑制(restraint)を、法、相互牽制、同盟、制度などによって説明可能な理論的概念として確立して行った。

しかし、トランプの思考過程にあるのは、インタビューに現れているように、「抑制は法・同盟・制度などではなく、個人の気分・道徳だ」ということだ。つまり、トランプの世界には理論的抑制が存在しない。

このような信念の源泉は、少なくとも部分的には圧倒的な無教養によるものだろう。長い時間をかけて積み上げられた人類の文明に対する無理解や、文化の価値を理解する能力の欠如は、この世界の全ての価値を「力」に還元してしまう。

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