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[11,890字]
これは、ブラウン大学のホロコーストおよびジェノサイド研究教授であるオメール・バルトフ博士(Omer Bartov)が、ニューヨーク・タイムズに寄稿した論説、I’m a Genocide Scholar. I Know It When I See It.の全訳です。タイトルを直訳すると、「私はジェノサイド研究者です。それを見れば私には分かります。」になりますが、彼がこの論説を書いた原動力になったと思われることを取り上げて「私は間違っていた – あるイスラエル人ジェノサイド学者の告白」としました。
この論説は、一人の学者のいわば “転向告白” であると同時に、著者がジェノサイドやホロコーストに関わるアカデミズムで活躍する学者たちの名前を数多く引用しており、具体的にアカデミズムの状況が分かるのも非常に興味深いものでした。Wikipedia やYouTube の解説動画などで知識を補充している人は少なくないと思いますが、その次の段階に進みたい人にとっては、非常に有益な情報が満載されています。文中に多くのリンクが張ってありますが、それだけで一つの文献集になっています。
この論説で特筆すべきことの一つは、このイスラエル人の学者が、現在起きているガザで起きている被害、つまり彼がジェノサイドと認めたイスラエルによる犯罪の全ての後に、いったいイスラエルはどうやって生きていくのか、どういうポジションを占めることになるのかという非常に根源的な問いに立ち向かうところです。
この問いは、我々、非イスラエル人/非ユダヤ人もしばしば考えることです。こんなことをして、その後いったいどの面下げて、人類の仲間として生きていくのかというような呟きをSNSでなん度も見ました。同様のことを考える人は多いのだろうと思います。その問いにイスラエル人のジェノサイド研究者はどう考えるのかは非常に興味深いところでした。
この記事は、以下のケイトリンさんの記事で引用されているので、ここで全訳を載せることにしたのですが、両方合わせて読まれることをお勧めします。

・原文は2万字を超える長いものなので、途中で迷子にならないように、内容にしたがい、小見出しをつけました。それが目次です。
・原文に挿入されていた写真及び表紙画像はそのまま同じ場所に入れています。
・原文は以下で参照することが出来ます。
The New York Times, Opinion, Guest Essay
I’m a Genocide Scholar. I Know It When I See It.
By Omer Bartov
Dr. Bartov is a professor of Holocaust and genocide studies at Brown University.
July 15, 2025, 1:00 a.m. ET
私は間違っていた – あるイスラエル人ジェノサイド研究者の告白
2025年7月15日

- 私は間違っていた – あるイスラエル人ジェノサイド研究者の告白
- 1. 最初はジェノサイドだとは思っていなかった
- 2. ジェノサイドの意図と行動
- 3. 結論と個人的な背景
- 4. 他の専門家の見解と国際的反応
- 5. ジェノサイドの定義と意図
- 6. ジェノサイド認定の影響
- 7. イスラエルの否定と破壊の規模
- 8. 戦争かジェノサイドか
- 9. 停戦とその後の展開
- 10. 民族浄化とジェノサイドの関連
- 11. ホロコースト研究者の沈黙
- 12. イスラエルの正当化と国際的反応
- 13. イスラエルの将来と道徳的影響
- 14. ホロコースト記憶文化への影響
- 15. ホロコースト学者の反応と対立
- 16. 学術的対立の影響
- 17. ホロコースト研究の未来
- 18. 希望と将来の展望
1. 最初はジェノサイドだとは思っていなかった
2023年10月7日のハマスによるイスラエル攻撃から1か月後、私はイスラエル軍がガザへの反攻において戦争犯罪、および潜在的に人道に対する罪を犯したという証拠があると信じていました。
しかし、イスラエルの最も激しい批判者たちの叫び声とは対照的に、その証拠は私にはジェノサイドの犯罪にまで達しているとは思えませんでした。
2024年5月までに、イスラエル国防軍は、ガザ地区の最南端で比較的損傷が少なかった最後の都市ラファに避難していた約100万人のパレスチナ人に対し、ほとんど避難場所がないマワシ(Mawasi)のビーチエリアに移動するよう命じました。
その後、軍はラファの多くを破壊し進め、この行為は8月までにおおむね達成されました。
2. ジェノサイドの意図と行動
その時点で、イスラエル国防軍の作戦のパターンが、ハマス攻撃後の数日間にイスラエル指導者たちが発したジェノサイドの意図を示す声明と一致していることを否定することはもはや不可能に思えました。
ベンヤミン・ネタニヤフ首相は、敵がその攻撃に対して「大きな代償」を払うと約束し、イスラエル国防軍はハマスが活動しているガザの一部を「瓦礫に変える」と述べ、「ガザの住民」に「今すぐ出て行くように」と呼びかけ、「我々はあらゆる場所で強力に作戦を展開する」と述べました。
ネタニヤフ氏は市民に対し、「アマレクがあなた方に何をしたか」を思い出すよう促しました。この引用は、聖書の箇所でイスラエル人に古代の敵の「男女、幼児、乳飲み子を等しく殺す」ことを求める言及として多くの人が解釈しました。
政府および軍当局者は、彼らが「人間動物」と戦っていると述べ、その後「完全な殲滅」を求めました。
議会の副議長ニッシム・ヴァトゥリ(Nissim Vaturi)氏は、X上でイスラエルの任務は「ガザ地区を地球上から消し去ること」でなければならないと述べました。
イスラエルの行動は、ガザ地区をパレスチナ人口にとって住めない場所にするという表明された意図の実行としか理解できません。
私は、その目標が、人々をガザ地区から完全に追い出すこと、または、行く場所がないことを考慮して、爆撃と食料、きれいな水、衛生、医療援助の深刻な剥奪を通じてこの地域を弱体化させ、ガザのパレスチナ人が集団として存在を維持または再構築することが不可能になるようにすることだったし、今日もなおそうであると信じています。
3. 結論と個人的な背景
私の避けようのない結論は、イスラエルがパレスチナ人に対してジェノサイドを犯しているということです。
シオニストの家庭で育ち、人生の前半をイスラエルで暮らし、イスラエル国防軍で兵士および将校として奉仕し、キャリアのほとんどの時間を戦争犯罪とホロコーストの研究と執筆に費やしてきた私にとって、これは到達するのが辛い結論であり、できる限り抵抗した結論でした。
しかし、私は四半世紀にわたりジェノサイドに関する授業を教えてきました。だから、それを見れば、それがジェノサイドだと分かります。
4. 他の専門家の見解と国際的反応
これは私だけの結論ではない。イスラエルのガザでの行動はジェノサイド以外に定義しようがないと結論付けるジェノサイド研究や国際法の専門家が増え続けている。
国連のヨルダン川西岸およびガザ担当特別報告者のフランチェスカ・アルバネーゼ(Francesca Albanese)氏やアムネスティ・インターナショナル(Amnesty International)も同様です。
南アフリカは、国際司法裁判所でイスラエルに対するジェノサイドの訴訟を提起しています。

国家、国際機関、法的・学術的専門家によるこの呼称の継続的な否定は、ガザとイスラエルの人々だけでなく、ホロコーストの恐怖の後に確立された国際法のシステムにも、取り返しのつかない打撃を与えるでしょう。このシステムは、こうした残虐行為が二度と起こらないようにするために設計されたのです。
それは、私たち全員が依存する道徳的秩序の基盤そのものに対する脅威です。
* * *
5. ジェノサイドの定義と意図
ジェノサイドの罪は、1948年に国連によって「国民的、民族的、人種的または宗教的グループを、そのようなものとして、全部または一部を破壊する意図」と定義された。
したがって、何がジェノサイドを構成するかを判断するには、意図を確立し、それが実行されていることを示さなければなりません。
イスラエルの場合、その意図は多くの当局者や指導者によって公に表明されています。
しかし、意図は現地の作戦のパターンからも推測でき、このパターンは2024年5月までに明らかになり、それ以来ますます明確になっています。イスラエル国防軍がガザ地区を体系的に破壊しているからです。
ジェノサイド研究者のほとんどの人は、1944年にユダヤ系ポーランド人弁護士ラファエル・レムキン(Raphael Lemkin)によってこの言葉(ジェノサイド)が作られて以来、虐殺や非人道的な行為のあらゆる事例にこの言葉を適用する傾向があるため、現代の出来事にこの言葉を適用することに慎重です。
実際、一部の人々は、ジェノサイドという分類は完全に破棄されるべきだと主張しています。なぜなら、それは特定の犯罪を識別するよりも、憤りを表現するために使われることが多いからです。
しかし、レムキン氏が認識し、後に国連も同意したように、特定の集団の人々を絶滅しようとする試みを、戦争犯罪や人道に対する罪といった国際法上の他の犯罪と区別できることは極めて重要です。
これは、他の犯罪が個人としての民間人の無差別または意図的な殺害を伴うのに対し、ジェノサイドは人々を特定の集団の成員として殺害し、集団自体を政治的、社会的、または文化的存在として再構築できないように不可逆的に根絶することを意味するからです。
そして、国際社会が条約を採択することで示したように、すべての署名国にはそのような試みを防ぎ、それが起こっている間はそれを止めるためにできることすべてを行い、その後、この犯罪の中の犯罪に関与した者を、たとえそれが主権国家の国境内で起こったとしても、処罰する義務があります。
6. ジェノサイド認定の影響
ジェノサイドの認定には、重大な政治的、法的、道徳的影響があります。
ジェノサイドの疑いをかけられ、起訴され、または有罪とされた国家、政治家、軍人は、人類の規範から逸脱した存在と見なされ、国際社会のメンバーであり続ける権利を損なうか、失う可能性があります。
国際司法裁判所が特定の国家がジェノサイドに関与しているとの判断を下し、特に国連安全保障理事会によって執行された場合、厳しい制裁につながる可能性があります。
国際刑事裁判所によってジェノサイドまたはその他の国際人道法違反の罪で起訴されたり、有罪とされた政治家や将軍は、国外で逮捕される可能性があります。
そして、個々の市民の立場がどうであれ、ジェノサイドを容認し、共謀する社会は、憎しみと暴力の炎が消えた後も、この「カインの印」を長く背負うことになるでしょう。
訳註: 「カインの印」とは、旧約聖書『創世記』4章に由来する表現で、カインが弟アベルを殺害した罪により神からつけられた印を指す。この印はカインを罰しつつ保護する役割を持つが、転じて罪や恥辱の象徴として用いられる。本文では、ジェノサイドを容認・共謀する社会が背負う永続的な道徳的・歴史的汚点を表現している。
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7. イスラエルの否定と破壊の規模
イスラエルは、戦争犯罪、人道に対する罪、ジェノサイドのすべての告発を否定しています。
イスラエル国防軍は、犯罪の報告を調査すると述べていますが、その調査結果を公開することはほとんどなく、規律やプロトコルの違反が認められた場合でも、通常は軽い叱責を下すに留まっています。
イスラエルの軍および政治指導者は、イスラエル国防軍が合法的に行動していると繰り返し述べ、攻撃される予定の場所から民間人に避難するよう警告を発し、ハマスが民間人を人間の盾として使用していると非難しています。
実際、ガザにおける住宅だけでなく、政府の建物、病院、大学、学校、モスク、文化遺産、水処理施設、農地、公園などの他のインフラの体系的な破壊は、パレスチナ人の生活をガザで再建できないようにする意図的な政策を表しています
ハアレツの最近の調査によると、推定174,000の建物が破壊または損傷され、それはガザ地区の全構造物の最大70パーセントを占めています。 ガザの保健当局によると、これまでに58,000人以上が死亡し、その中には17,000人以上の子供が含まれており、総死亡者数のほぼ3分の1を占めています。その中の870人以上の子供は1歳未満でした。
保健当局によると、2,000以上の家族が全滅しています。さらに、5,600の家族は今、ただ1人の生存者しか残っていません。少なくとも10,000人が自宅の瓦礫の下にまだ埋まっているとされています。138,000人以上が負傷し、身体に障害を負っています。
ガザは今、世界で人口当たり最も多くの子供が手足を失うという悲惨な記録を背負っています。継続的な軍事攻撃、親の喪失、長期的な栄養失調にさらされた子供たちの世代全体は、生涯にわたり深刻な身体的および精神的影響を被るでしょう。さらに、数千人の慢性の病気の人々が病院での治療をほとんど受けられず、その事実は語られていません。
8. 戦争かジェノサイドか
ガザで起こっている恐怖は、ほとんどの観察者によって依然として戦争と表現されています。しかし、これは誤った呼称です。過去1年間、イスラエル国防軍は正規の軍事組織と戦っていません。10月7日の攻撃を計画し実行したハマスの組織は破壊されましたが、この弱体化した同組織はイスラエル軍と戦闘を継続しており、イスラエル軍が支配していない地域における住民の統治権を維持しています。
今日、イスラエル国防軍は主に破壊と民族浄化の作戦に従事しています。ネタニヤフ氏の元参謀総長および国防相で強硬派のモシェ・ヤアロン(Moshe Yaalon)氏は、11月にイスラエルのDemocrat TVやその後の記事やインタビューで、ガザ北部から人口を排除しようとする試みを、そのように表現しました。

9. 停戦とその後の展開
1月19日、大統領復帰を翌日に控えたドナルド・トランプの圧力の下、停戦が発効し、ガザの捕虜とイスラエルのパレスチナ人囚人の交換が進みました。
しかし、3月18日のイスラエルが停戦を破った後、イスラエル国防軍は、ガザ全住民をガザ地区の4分の1の面積しかない、ガザ市、中央難民キャンプ、マワシ海岸の3つの地域に集中させるという広く知られた計画を進めています。
米国から供給された大量のブルドーザーと巨大な航空爆弾を使用して、軍は残りのすべての構造物を破壊し、領土の残りの4分の3を支配しようとしているように見えます。
これはまた、イスラエル軍が守る数か所の配給ポイントで断続的に限られた援助物資を提供する計画によって促進されており、人々を南に引き寄せています。多くのガザ住民は食料を得ようとする必死の試みの中で殺され、飢餓危機は深まっています。
7月7日、イスラエル・カッツ国防相は、イスラエル国防軍がラファの廃墟の上に“人道都市(humanitarian city)”を建設し、最初にマワシ地区からの60万人のパレスチナ人を収容すると述べました。彼らには国際機関によって物資が供給され、立ち去ることは許可されません。
* * *
10. 民族浄化とジェノサイドの関連
一部の人々は、このキャンペーンをジェノサイドではなく民族浄化(ethnic cleansing)と表現するかもしれません。しかし、これら二つの犯罪は繋がっています。民族グループが行く場所がなく、いわゆる一つの安全地帯から別の安全地帯へと絶えず追いやられ、容赦なく爆撃され、飢餓にさらされるなら、民族浄化(ethnic cleansing)はジェノサイドになり得ます。
これは、20世紀のいくつかの有名なジェノサイドの場合に当てはまります。たとえば、1904年に始まった現在のナミビアであるドイツ南西アフリカでのヘレロ(Herero)とナマ(Nama)、第一次世界大戦中のアルメニア人、そして実際にホロコーストでも、ドイツがユダヤ人を追放しようとした試みから始まり、彼らの殺害で終わりました。
11. ホロコースト研究者の沈黙
今日に至るまで、ホロコーストの研究者のごくわずかと、それを研究し追悼する機関のいずれも、イスラエルが戦争犯罪、人道に対する罪、民族浄化、またはジェノサイドで非難されうると警告していません。
この沈黙は「二度と繰り返さない(Never again)」というスローガンを嘲笑ものにし、その意味を、どんな非人道行為にも立ち向かう決意から、過去の被害を口実に他人を破壊する言い訳、謝罪、さらには白紙委任状へと変えてしまいました。
これは、現在の悲劇がもたらす数え切れない大きな犠牲の一つです。イスラエルがガザのパレスチナ人の存在を文字通り根絶しようとし、ヨルダン川西岸でパレスチナ人への暴力をますます強めている中、ユダヤ国家がこれまで頼ってきた道徳的・歴史的正当性(credit)は失われつつあります。
12. イスラエルの正当化と国際的反応
ホロコースト後にナチスによるユダヤ人のジェノサイドへの答えとして創設されたイスラエルは、常にその安全に対するいかなる脅威も、別のアウシュビッツにつながる可能性があると見なすべきだと主張してきました。
これが、イスラエルが敵とみなす者をナチスとして描くライセンスを彼らに与えています。この言葉は、イスラエルのメディア関係者がハマス、そしてその延長として、すべてのガザ住民を描写するために繰り返し使用されており、それは誰も「無関係」ではなく、乳児でさえ成長すれば戦闘員になるとする一般的な主張に基づいています。
これは新しい現象ではありません。早くも1982年のイスラエルのレバノン侵攻時に、首相メナヘム・ビギン(Menachem Begin)は、ベイルートに潜伏していたヤシール・アラファト(Yasir Arafat)を、ベルリンの地下壕にいたアドルフ・ヒトラーに例えました。
今回、このアナロジーは、ガザの全人口を根絶し、排除することを目的とした政策に関連して使用されています。
ガザの毎日の恐怖の光景は、イスラエルのメディアの自己検閲によってイスラエルの公衆から隠されており、これがナチスのような敵に対する防衛戦争であるというイスラエルのプロパガンダの嘘を暴露しています。
イスラエルの報道官が、イスラエル国防軍が「世界で最も道徳的な軍隊」であるという空虚なスローガンを恥ずかしげもなく口にするのを聞くと、背筋が寒くなります。
フランス、英国、ドイツなどの一部のヨーロッパ諸国及びカナダは、特に3月にイスラエルが停戦を破って以来、イスラエルの行動に対して弱々しく抗議しています。
しかし、彼らは武器の輸送を停止せず、ネタニヤフ政府を抑止する可能性のある具体的かつ意味のある経済的または政治的措置をほとんど取っていません。
一時期、米国政府はガザへの関心を失ったように見え、トランプ大統領は2月に米国がガザを掌握し、「中東のリビエラ」に変えると最初に発表しましたが、その後イスラエルにガザの破壊を進めさせ、トランプはイランに注意を向け始めました。
現在、トランプ氏が渋るネタニヤフ氏に再び圧力をかけ、少なくとも新たな停戦に達し、容赦ない殺戮を終わらせることを願うしかありません。
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13. イスラエルの将来と道徳的影響
ホロコーストの灰の中から生まれたイスラエルの議論の余地のない道徳性が、避けられない破壊によって、イスラエルの将来にどのように影響するでしょうか?
イスラエルの政治指導者とその市民は、それを考えなければなりません。
緊急にパラダイムを変える必要性、つまり、どのようなパラメータであれ双方が合意し、その上でイスラエルとパレスチナが土地を共有する合意以外にこの紛争の解決策はないことを認識しなければいけないという圧力が国内にほとんどないようです。
同盟国からの強力な外部圧力もまた、ありそうにない。
私は、イスラエルがその破滅的な道を突き進み、おそらく不可逆的に、完全な権威主義アパルトヘイト国家に変貌してしまうことを深く懸念しています。
歴史が教えてくれるように、そのような国家は長続きしません。
14. ホロコースト記憶文化への影響
もう一つの疑問が生じます。イスラエルの道徳的退行は、ホロコーストを記憶し、教育する文化や制度にどんな影響を及ぼすでしょうか。多くの指導者が、ガザでの非人道的な行為やジェノサイドを非難する責任を今なお認めようとしない中で、です。
ホロコーストを中心に構築されたを世界的な記憶と悼みの文化に携わる人々は、イスラエルの行動による道徳的責任に対峙しなければなりません。
ホロコーストや人類の歴史を傷つけてきた多くの他のジェノサイドを研究する世界の学者たちは、ガザでの惨事をジェノサイドと呼ぶことに、ますます一致しつつあります。
戦争開始から1年余りの11月に、イスラエルのジェノサイド研究者シュムエル・レーダーマン(Shmuel Lederman)が、イスラエルがガザでジェノサイドを行っているとする批判の声に加わり、その声は今、大きく広がっています。
カナダの国際弁護士ウィリアム・シャバス(William Schabas)も昨年同じ結論に達し、最近、イスラエルのガザでの軍事行動を「はっきりと」ジェノサイドであると表現しました。
国際ジェノサイド学会の会長メラニー・オブライエン(Melanie O’Brien)や、英国の専門家マーティン・ショー(Martin Shaw:彼はハマスの攻撃もジェノサイド的だと述べています)などの他のジェノサイド専門家も同じ結論に達しており、ニューヨーク市立大学のオーストラリア人学者A・ダーク・モーゼス(A. Dirk Moses)は、オランダの出版物NRCでこれらの出来事を「ジェノサイド的および軍事的論理の混合」と表現しました。
同じ記事で、アムステルダムの「NIOD戦争・ホロコースト・ジェノサイド研究所」の教授ウール・ウミット・ウンゴール(Uğur Ümit Üngör)は、あれをいまだにジェノサイドではないと考える学者がいるかもしれないが、「私は彼らを知らない」と述べました。
15. ホロコースト学者の反応と対立
私が知るほとんどのホロコースト学者は、ガザがジェノサイドだという見解を持っていないか、少なくとも公に口にしていません。
ニュージャージーのストックトン大学の「ホロコーストおよびジェノサイド研究プログラム」のディレクターであるイスラエルのラズ・セガル(Raz Segal)や、エルサレムのヘブライ大学の歴史家アモス・ゴールドバーグ(Amos Goldberg)とダニエル・ブラットマン(Daniel Blatman)などの注目すべき例外を除いて、ナチスのユダヤ人ジェノサイドの歴史に従事する学者の大多数は驚くほど沈黙を守っており、一部はガザでのイスラエルの犯罪を公然と否定するか、より批判的な同僚を扇動的な発言、過剰な誇張、井戸に毒を盛る行為、反ユダヤ主義だと非難しています。
12月にホロコースト学者のノーマン・J・W・ゴダ(Norman J.W. Goda)は、「このようなジェノサイドの告発は、イスラエルの正当性に対するより広範な挑戦のための隠れ蓑として長い間使われてきた」と意見を述べ、「ジェノサイドという言葉自体の重みを軽んじている」と懸念を表明しました。
ゴダ博士が、エッセイで「ジェノサイドという中傷(genocide libel)」と呼んだこの批判は、反ユダヤ主義の偏見を煽っているとされ、特に子供たちの犠牲を強調することでジェノサイドの非難を強めているとしています。そのような子供たちの映像は、NGOやソーシャルメディアなど、イスラエルをジェノサイドで訴える場で広く見られます。
言い換えれば、イスラエルのパイロットが発射した米国製の爆弾で引き裂かれたパレスチナの子供たちの画像を示すことは、この見解では反ユダヤ的行為です。
最近、ゴダ博士と尊敬されるヨーロッパの歴史家ジェフリー・ハーフ(Jeffrey Herf)は、ワシントン・ポストに「イスラエルに投げかけられたジェノサイドの告発は、キリスト教とイスラムの両方の過激な解釈に見られる深い恐怖と憎しみの井戸から引き出されている」と書いた。それは「宗教的/民族的グループとしてのユダヤ人から、イスラエル国家へと非難を移し、イスラエルを本質的に邪悪なものとして描いている」と述べました。
* * *
16. 学術的対立の影響
ジェノサイド学者とホロコースト歴史家の間のこの亀裂の影響は何でしょうか?
これは単なる学術内の争いではありません。
近年のホロコーストを中心に作られた記憶文化は、ユダヤ人のジェノサイド以上のものを包含しています。
それは政治、教育、アイデンティティにおいて重要な役割を果たすようになりました。
ホロコーストに捧げられた博物館は、世界中の他のジェノサイドの表現のモデルとして機能してきました。
ホロコーストの教訓が、寛容、多様性、反人種差別、移民や難民の支援、そして言うまでもなく人権や国際人道法の推進を要求するという主張は、近代の頂点にある西洋文明の中心で起こった、この犯罪の普遍的影響の理解に根ざしています。
ガザでのイスラエルのジェノサイドを指摘するジェノサイド学者を反ユダヤ的だと非難することは、ジェノサイド研究の基礎、つまりジェノサイドを定義し、防止し、処罰し、その歴史を再構築する継続的な必要性を侵食する脅威となります。
ガザでのジェノサイドを批判する声が、悪意やホロコーストの根底にあった憎しみと偏見によるものだと決めつけるのは、道徳的に許しがたいだけでなく、ジェノサイドを否定し責任を逃れる政治を助長します。
同じように、ホロコーストの教育や追悼に人生を捧げてきた人々が、ガザでのイスラエルのジェノサイドを無視したり否定したりすれば、過去数十年にわたりホロコーストの研究や記憶が掲げてきた教訓をすべて台無しにする恐れがあります。
つまり、すべての人の尊厳と法の尊重を守り、安全保障や国家の利益、むき出しの復讐心を口実に、非人道的な行為が人々の心や国家の行動を支配するのを決して許さないことが、ホロコーストの教訓です。

17. ホロコースト研究の未来
私が恐れるのは、ガザのジェノサイドの後、これまでと同じ方法でホロコーストを教え、研究し続けることがもはや不可能になることです。
イスラエル国家とその擁護者が、イスラエル軍の犯罪を隠すためにホロコーストを執拗に持ち出してきたため、ホロコーストの研究や記憶は、すべての人類のための正義を求める力を失い、戦後間もない頃のユダヤ人だけの悲劇として閉じ込められていた状態に戻る恐れがあります。当初、ホロコーストは疎外されたユダヤ人による限られた関心事でしたが、数十年後に全人類への教訓と警告として認められるようになりました。
同様に懸念されるのは、ジェノサイド全体の研究が反ユダヤ主義の非難を生き延びず、不寛容、人種的憎悪、ポピュリズム、権威主義の台頭が、20世紀のこれらの学術的、文化的、政治的努力の中心にあった価値を脅かしている時期に、重要な学者や国際法学者のコミュニティを失うかもしれないということです。
18. 希望と将来の展望
おそらく、この非常に暗いトンネルの先にある唯一の光は、新世代のイスラエル人が、ホロコーストの影に隠れることなく未来に立ち向かい、彼らの名の下で行われたガザのジェノサイドの汚点を背負わなければならない可能性です。
イスラエルは、非人道的な行為の正当化としてホロコーストに頼ることなく生きることを学ばなければなりません。
現在私たちが目撃しているすべての恐ろしい苦しみにもかかわらず、それは価値あることであり、長期的には、イスラエルがより健康的で、理性的で、恐れと暴力の少ない方法で未来に直面するのを助けるかもしれません。
これは、パレスチナ人の膨大な死と苦しみを補償するものではありません。
しかし、ホロコーストの圧倒的な負担から解放されたイスラエルは、700万人のユダヤ人市民がイスラエル、ガザ、ヨルダン川西岸に住む700万人のパレスチナ人と平和、平等、尊厳の中で土地を共有する必要性を、ついに受け入れるかもしれません。
それが唯一の公正な清算となるでしょう。
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