これは、Ray of Letters メンバーシップのメンバー限定記事です。詳しくは下記ボタンをクリックして、案内をご覧ください。
10年くらい前、NYCの職場の周辺を定期的に巡回しているホームレスの友人がいた。ホームレスと言っても、彼は毎日決まったルートを歩いていた。時々忙しい、忙しいと言っていた。何かの用事をしに、どこかへ向かっているのだが、それが現実の用事なのかどうかなんて誰にも分からない。
僕がオフィスの前でタバコを吸っていると、色々と問題があって、タバコが手に入らないという話を長々としに来る。それはどうでもいいから、一本あげると話はおさまった。そんなことを繰り返すうちに、僕たちは友達になった。彼はいつもタバコをせびるわけではない。
ある日、なんか変わった銘柄のタバコを1カートンもってやってきた。どこかでどうやって手に入れたのかは分からない。ちょっと自慢げにそのカートンを見せて、そのタバコがいかに素晴らしいものかを滔々と喋ってる。途中で、あっと気がついた。このタバコを僕に買ってほしいのだ。
ホームレスでも、じっと1箇所に座って根気強く、通行人の投げていく小銭を集めると、相当にお金持ちになれるそうだが、彼のように動き回っていては、現金収入がなかなか得られない。
いくら?と僕はきいた。彼はもじもじして、まだそのタバコの効用みたいなことを話し続ける。「わかった。良さそうなタバコだね、いくら?」とまた訊いた。
すると、彼はものすごく思いつめた表情になって、まるで清水の舞台から飛び降りるように「60 bucks」と言って、またガマの油売り口上を始めたので、それを遮って、「OK, I’ll get it」と言って、60ドルを渡した。その頃、タバコは一箱12、3ドルだったので、1カートンは120ドル以上する。半額で買えたのだから、僕にとってはかなり安い買い物だ。吸ったことない銘柄だが、まあいい。
彼は60ドルを受け取る時に大きく目を開いて深呼吸をするような顔になっていた。そして、また”用事”を思い出したらしく、何か一人で呟きながら、人混みの中に消えていった。
彼はいつも空と話をしていた。何かが空にいるのかと思い、僕も空を見上げるが、僕には何も見えない。しかし、彼の空との会話を聞いていて、ある日、その話自体は何か成立していることに気がついた。ただ、それは僕の現実ではないだけで、彼には彼の世界があるのだ。それを我々は妄想と呼ぶが、彼から見たら僕の話は妄想だろう。
時には、僕は彼の世界(妄想)の中に入って、彼と長い会話をすることもあった。僕の同僚たちも周りでそれを静かに聞いていた。国際公務員は、日々のあり得ない世界の中で、理想や妄想に対する耐性が限界まで強くなっていた。
なんでこんな話から始めたのかというと、2025年6月15日、Fox Newsのブレット・ベアーが「スペシャル・ニュース」の特別版として、ネタニヤフのインタビューを聞いていた時に、此の世という同じ物理的世界に住んでいながら、まったく別の精神世界に住んでいるホームレスの彼のことを思い出したからだ。
このインタビューをずっと見ていたが、その間、頭の中をぐるぐる回っていた言葉は、オリバー・ストーンが何度も使っているMadman(狂人)という言葉だった。ストーンは20年くらい前にネタニヤフを初めてインタビューした時から、その言葉を使っている。(オリバー・ストーンについては別記事にする)
ここまで根本的にねじくれ曲がっていたら、議論は成り立たないし、狂人以外に他に表現のしようがない。話の局部だけを聞いていたら、何か筋の通ったことを言っているように見えるかもしれない。しかし、少し引いて全体を見れば、完全に狂ってる。
ネタニヤフは我々の現実とは異なったところに住んでいるのだろう。ホームレスの彼もそうだった。但し、彼の話は、彼がとてもinnocent な世界にいるのだろうと思わせた。しかし、ネタニヤフの世界は、我々の想像力では及ばないevil な世界なのだろうと僕は思う。そう思わない人も思う人もいるだろう。自分で聞いて/読んで考えてもらうしかない。
ネタニヤフ・インタビュー全訳
目次
- ネタニヤフ・インタビュー全訳
- (1) なぜイラン奇襲攻撃を開始したのか?
- (2) イランの核計画は停止していたという米国のインテリジェンスは間違っていたのか?
- (3) 政権転覆(Regime change)は攻撃目標の一部か?
- (4) イランがトランプ大統領の暗殺未遂を起こしたのか?
- (5) イスラエルによるイラン奇襲攻撃をトランプは知っていたのか?
- (6) トランプは公開で攻撃しないように促して、戦略的な奇襲を助けたのか?
- (7) イスラエルはイランの地下深くにある核施設を攻撃する能力を持っているか?
- (8) トランプ大統領に、30,000ポンドの貫通爆弾を使って核施設を攻撃するよう依頼したか?
- (9) 米国から要求したすべてのものを得ているか? 何か要求したけど得られていないものはあるか?
- (10) イランの核プログラムをどの程度後退させたか?
- (11) イランの防空システムをどのくらい破壊したか?
- (12) これはどうやって終わるのか?
- (13) どうやって終わるのか?
- (14) トランプ大統領がイスラエルのイラン最高指導者を殺す計画を拒否したのは本当ですか?
- (15) イラン外務大臣は、あなたが止めれば彼らも止めると言っているが、それに対するあなたの反応は?
- (16) イラン国内の石油およびエネルギーインフラを含む攻撃の目的は何か?
- (17) 今起きていることに対する湾岸諸国の反応をどう評価するか?
- (18) サウジ皇太子の発言
- (19) サウジ皇太子の言葉に対するあなたの反応は?
- (20) 10月7日前の時点に戻れるか?
- (21) 作戦開始以来、ガザでの死者についてイスラエルの推計はあるか?
ブレット・ベアー:
こんにちは。ワシントンからお送りする「スペシャル・リポート」の特別版へようこそ。私はブレット・バイアーです。数分後には、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相閣下との独占インタビューを生放送でお届けします。イランへの攻撃開始以来、初のインタビューです。ですがその前に、今日午後のフォックス・ニュース速報です。中東の現在の紛争について。イスラエルはイラン全土に対し、3日目の空爆を開始しています。イスラエル当局は、イラン人に兵器工場からの避難を勧告し、さらに強力な武力行使を行うと警告しています。イラン側は、これまでに128人が死亡、900人が負傷したと発表しています。イスラム共和国は独自のミサイル攻撃で応戦し、これにより13人が死亡、360人以上が負傷しています。イランの外務大臣は今日、イスラエルが攻撃を停止すれば自国も攻撃を停止すると述べました。最新の状況を、テルアビブから首席海外特派員のトレイ・イングストが伝えます。
Comments