【Overseas-27】ウクライナ:崩壊か核戦争か

これは、Ray of Letters メンバーシップのメンバー限定記事です。詳しくは下記ボタンをクリックして、案内をご覧ください。

[21,465字]

今回の【Overseas】の記事では、グレン・ディーセンのチャンネルでのスコット・リッターとの会話の全訳を載せます。

グレン・ディーセン(Glenn Eric Andre Diesen)は、ロシアの視点に立脚した地政学的分析で知られるノルウェーの政治学者です。現職は、University of South-Eastern Norwayの教授です。マッコーリー大学や西シドニー大学、またロシアの高等経済学院に在籍したこともあります。親ロシア的イデオロギーとそのメディア発言の内容に対しては、北欧諸国や学術界から激しい批判も寄せられています。

スコット・リッター(Scott Ritter)については、もう説明する必要がないかもしれないくらい日本でもよく知られていると思います。1984年から米海兵隊の情報将校をつとめ、湾岸戦争時には、シュワルツコフ将軍の下でミサイル分析官として勤務。1991年〜1998年には国連UNSCOM査察官として、イラクの大量破壊兵器(WMD)の査察をした人です。

イラクの大量破壊兵器(WMD)不存在を最も早い時期に正確に予測したことで有名になりましたが、それが政府を敵に回す結果になり、囮捜査によるネット上の性犯罪で起訴され、彼は司法取引を拒絶し実刑判決を受け、2年半のムショ暮らしをします(2012年3月〜2014年9月)。

2024年6月には、サンクトペテルブルク国際経済フォーラムに出席するため出国しようとしたところ、JFK空港で捜索令状や押収証明書の提示もしない米国税関・国境警備局職員にパスポートを押収されました。

2024年8月7日、FBIとニューヨーク州警察は、ニューヨーク州ベセルヘムにあるリッターの自宅を家宅捜索し、多数の証拠品が入った箱を押収しました。

アル・ジャジーラはハマス寄りだから、とかスプートニクはロシアのプロパガンダ・マシーンだからと言って、端から耳を塞ぐ人がいますが、スコット・リッターは”性犯罪者”だから信用できないという人もいます。

”性犯罪”という言葉が独り歩きして、スコット・リッターの名誉は大いに毀損されましたが、その肝心の”性犯罪”の内容は、オンライン上で囮捜査を2回かけられて、そこで反応したということです。リアルの世界で何か犯罪行為をしたわけでないのです。しかも、このようなケースでは刑罰を軽減してもらうために検察の言い分をまるごと容疑者が受け入れることが通常である司法取引さえ拒否している。その結果、彼は収監されて、べったりと”性犯罪者”の烙印を押された。

性犯罪を擁護しているのではなく、まさにスコット・リッターの評判を貶めて、政府にとって不都合な彼の言っていることを否定的に見られるようにすることこそが権力者の意図した効果であることも意識した方がよいと思います。

さて、その人たちは、その代わりに何を情報源にしているのでしょうか。CNNや、MSNBCや、ABCや、Foxや、そこに出ている常連の人、あるいはNew York Times や、Washington Post の記事なのか。ナニナニ寄りでないものは一つもありません。

この世に穢れなき純粋で中立な情報がどこかにあると夢見るのは勝手ですが、結局、それは狭い世界を自分で作っているだけのことです。無限の情報を避けるのでもなく、その中で溺れるのでもなく、自分の判断を確立して、自分でその責任をとることによってしか、自分という個は成立しない。

ただスコット・リッターの事件史自体は興味深い事象なので、いつかそれだけについて書こうと思います。今回は本題ではないので、これくらいにします。


今回取り上げる動画は、2025年6月11日に配信された “Scott Ritter: Dangerous Endgame in Ukraine: Collapse or Escalation” という動画です。

この動画の中で、スコット・リッターは、ウクライナの状況を軍事的側面から非常に詳しく説明します。軍事用語がたくさん出てくるので、随時、文中に注を付け加えました。

ウクライナを応援するとか、ロシアを応援するとか、そういう観点からウクライナの現状を見ていると、人類が今抱えている地球規模での危機を見失うことが示唆されています。

軍事的知識がなくても、この記事に出てくる現場の詳しい状況を読めば、ウクライナが急速に崩壊に向かっているのは見えると思います。

にもかかわらず、それを継続させようとする勢力がヨーロッパにおり、アメリカには気の弱いトランプとそれを利用する勢力がいる。ウクライナはロシアの核ドクトリンのレッドラインを越える攻撃を加え(6月1日)、ロシアはもはや手加減する必要はなくなった。核を使うか使わないかは、ロシアの自制のみにぶら下がってる。そのことを日本人も知っておいて悪くはない。地球が終われば、どうせ日本も終わるのだから。

目次

  1. ウクライナの危険なエンドゲーム:崩壊か激化か
    • 見事な戦争プロパガンダ
    • 特別軍事作戦とは何なのか?
    • 核抑止力への攻撃の結果は?
    • ロシアの決断
    • ウクライナ統合防空網の破壊
    • 防衛不能のドイツ
    • 機能不全のアメリカ国家安全保障チーム
    • 役立たずのミサイル防衛システム
    • トランプのしなかったこと
    • ディープステートとロシア・ハウス
    • ロシアの核ドクトリン
    • 和平プロセスを阻むのは誰か
    • グランド・フィナーレ
    • ロシアの軍事的選択肢

ウクライナの危険なエンドゲーム:崩壊か激化か

見事な戦争プロパガンダ

グレン・ディーセン:
こんにちは、皆さん。ようこそお越しくださいました。今日はスコット・リッターさんにご登場いただいています。彼は元アメリカ海兵隊の情報将校であり、また国連の武器査察官でもありました。
というわけで、番組に戻ってきていただきありがとうございます。

スコット・リッター:
呼んでいただいてありがとうございます。

グレン・ディーセン:
私にとって、このウクライナでの代理戦争全体のばかばかしさの一つは、過去20年にわたって「NATOのウクライナ拡大はウクライナの破滅を招く」と警告してきた人々がいたわけですが、そういう人たちは、ある理由で「反ウクライナ」として中傷されてきた一方で、実際にはNATOの拡大を歓迎し、交渉を拒否し、戦争が事実上敗北した後でさえ戦闘を続けるよう主張して、ウクライナを破滅に追いやった人々が、なぜか「親ウクライナ」とされているということです。
つまり、我々が目にしてきたのは本当に見事な戦争プロパガンダなのです。

しかし今、我々は多くの人が予測していた「終盤」に到達しつつあるようです。すなわち、前線が崩壊しつつあり、ウクライナの損害は増え、脱走者も増え、ウクライナ軍が完全に崩壊するという状況が、数ヶ月以内にも起こりうるように見え始めているのです。たとえ完全崩壊しないとしても、状況は急速に「悪い」から「さらに悪い」へと進んでいます。
それで、まずはお聞きしたいのですが、今ウクライナで形成されている主な展開とは何だとお考えですか?

スコット・リッター:
ええ、つまり、これは私――そして他の人たちも――が予測していたことです。それは、戦争が拡大した時点、つまり2022年秋に、ロシアがフェーズ1からの移行を行ったときからです。フェーズ1というのは、ウクライナを交渉のテーブルに着かせるための電撃作戦であり、実際、成功したわけですが、その後ウクライナは、実際に合意した和平を拒否しました。それも、ウクライナのことを心配している「ふりをした」人々の言いなりになって。

特別軍事作戦とは何なのか?

私が言ったのは、「我々は今、ウクライナをすり減らす消耗戦へと移行しつつある」ということです。ただし私は、ウクライナをすり減らすのにかかる時間について、もっと楽観的な予測をしていました――おそらく、それは私が他の多くの西側の観察者たちと同様、「特別軍事作戦(Special Military Operation)」というものが何なのかを理解していなかったからでしょう。

私の出自というのは、戦争というものが「完全勝利を目指すための行動」で構成されているという前提の上にあります。
ですが、特別軍事作戦というのは、完全勝利を目指す行動ではなく、最初から「限定的な行動」であり、その上に多くの政治的要素が重ねられていたのです。

そのため、西側の軍事的観点から見ると、ロシアが実際に何をしているのか理解するのは困難でした。なぜなら、西側の訓練を受けた頭で見ると、多くの「機会損失」が見えてしまうからです。つまり、「なぜこれこれは許されたのか?」と。
たとえば、戦時下のはずの国で、西側の代表団が鉄道でキエフに行き、比較的妨げられることなくキエフで過ごすことができるのはなぜか? なぜその鉄道路線が今も存在しているのか?

私が保証しますが、もしアメリカがウクライナと戦争状態にあったなら、その鉄道路線は存在していなかったでしょう。そして、キエフに向かう代表団は、おそらく片道切符になっていたはずです。でも、ロシアはそういうやり方をしていないのです。

ですから、タイムラインは外れていたけれども、プロセス――つまり軍事的な数式――は同じだったのです。ロシアは消耗戦に突入して、最終的にはウクライナの資源が補充できなくなる「限界点」に到達するはずです。

そして、そうなったときには、最終的にウクライナ側の軍の統制が崩壊し、ひとたび崩壊すれば、すべては終わりです。
ロシアはその崩壊を迅速に利用できるようになる。なぜなら、ロシアは資源が尽きることがないからです。

これは当初から明らかだったことですが、多くの人がそれに同意しませんでした。しかし、それは私を含めた一部の人々が100%正しかったことのひとつです。つまり、ロシアの軍事体制は、ウクライナの軍事体制を、NATOの支援を受けていたとしても、凌駕できるということです。

なぜなら、ロシアにはより深い人的資源があり、軍需産業も即時に動員可能だったのに対し、西側諸国は今なお動員していません。

そして結局、ウクライナは資源を使い果たすことになる。それが、現在の我々の立っている場所なのです。

すみません、ここから先は、Overseas プランのメンバー専用エリアになってます。メンバーの方はログインすると読むことができます。

まだメンバーでない方は、こちらの案内をご覧ください。

★読んで良かったなと思ったら、投げ銭もお願いします!

  • Copied the URL !
  • Copied the URL !

Comments

To comment

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.