【Overseas-24】ウクライナ戦争をめぐる壊滅的な言語空間

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これは、YouTube の動画「Russia Won the War – John Mearsheimer, Alexander Mercouris & Glenn Diesen」の一部分をほぼ逐語訳したものです。
最後に全体の要約も載せています。

日本の大手メディア運営のYouTubeチャンネルに登場する日本の”識者”たちの突拍子もない妄想を聞いていると、下の会話のミアシャイマーが言ってる結論と同じ思いにいたります。


ジョン・ミアシャイマー:
でも問題なのはね、グレン(グレン・ディーセン)、西側がロシアへの圧力を高め続ければ続けるほど、ロシア側はさらに多くの領土を奪い、より冷酷な手段に訴えるようインセンティブが働くということだ。

だから私が思うに、今起きているのは、プーチンが「西側はロシアを破壊しようとしている」と理解していることだ。要するに、君(グレン)が言ってるのはそういうことだろう。

西側は、ロシアを消耗させて、重大な譲歩を強い、著しく弱体化させたいと思っている。だが、もし自分がプーチンの立場なら、それは絶対にさせまいとするだろう。そしてそれを防ぐ最良の方法は、ウクライナを本格的に鎮圧し、残された国家を可能な限り機能不全に陥らせることだ。

そして、将来の紛争に備えて自らを準備する必要がある。ロシアはまさにそうしている。なぜなら彼らは、ヨーロッパ、そして西側全体が今後も執拗にロシアに損害を与え続けることを理解しているからだ。 私は、このような展開が壊滅的な結果をもたらすことになると思っている。

アレクサンダー・メルクーリス:
同感だ。少しだけ言いたいことがある。まず、ジョン、君が言った「軍事的現実や歴史をきちんと見ようとしない人々」についてだけど、ヨーロッパのことを話すなら、それはアメリカ人には少し理解しがたいかもしれないが、今のヨーロッパは完全に「文民的な社会」になってしまっている。軍事に関する知識や背景を持つ政治権力者は非常に少ない。ほとんど皆無と言ってもいい。

アメリカにはまだ軍とつながりのある人々がいて、政府内にも議会にも、軍事的な視点を持って意思決定に関与している人々がいる。もちろん、彼らの意見に私が常に同意するわけではないし、むしろ多くの場合、彼らの考えは間違っていると思うこともある。でも、少なくとも彼らは「戦争とは何か」そして「それには限界がある」という感覚を持っている。

ヨーロッパにはその感覚がない。私が知っているロンドンの労働党内閣には、軍事的背景を持つ者は一人もいない。ドイツの政府も完全に文民的で、フランスでさえ、かつては軍事的伝統があったが、今はそれも薄れてきている。

だから、彼らには軍事力の限界を語る時の「感覚」がないんだ。彼らはアメリカは圧倒的に強く、ロシアははるかに弱いと単純に信じ込んでおり、それ以上考えを巡らせようとしない。

そして、これは話題が大きく変わるが、私がどうしても言っておきたいことがある。それは、「この戦争をあと5年続けよう。多くのウクライナ人を犠牲にしてでも、ロシアを弱体化させよう」と言っているヨーロッパ人がいるという事実についてだ。

それは単に冷酷で不道徳なだけではない。事実に反している。 過去3年間の現実は、ロシアが軍事的により強くなり、今では3年前よりもはるかに強大な軍事力を持つ国家になっているということだ。

一方、ヨーロッパは著しく弱体化している。 英国陸軍は自走榴弾砲を失い、ドイツには戦車が不足しており、イタリアには迎撃用の防空システムがもう存在しない。戦争が長引けば長引くほど、ヨーロッパにおける軍事バランスはロシアに有利に傾き続けている。

しかし、この点について語られることはない。これもまた問題の一つだ。 そしてこれは、グレンが非常にうまく書いてきたことでもあるが、こうした議論が完全に封じられている状況がある。

「ロシアにも一定の理があるのではないか」と言おうものなら、たとえ全面的に同意しないにせよ、何かしら彼らの言い分にも一理あると発言するだけで、「戦争に負けているのはロシアではなく、むしろ勝っている」とか「ロシア経済は予想よりずっと洗練され、打たれ強い」と言っただけで、すぐに叩かれる。Twitterでは群衆に袋叩きにされ、メディアからは排除され、主流の議論から締め出される。

このような状況下では、私たちがこうして番組で語っているようなポイントが世に出ず、議論されることもなく、間違った意見が修正もされずにまかり通ってしまう。 それが、今の私たちが置かれている危機的な状況を招いた大きな要因なのだと思う。

ジョン・ミアシャイマー:
私が時々思うのは、「私たちはもはや事実に基づいた世界に生きていないのではないか」ということだ。

人々は自分自身の現実を作り出していて、そういう人々と向き合っている限り、理性的で論理的な議論はほぼ不可能だ。事実がもはや重要ではないからだ。

それが今の私たちの現状であり、そして君が言う通り、アレクサンダー、それは壊滅的な結果をもたらしている。


全体の要約

Battlefield Dynamics(戦場の動向)
●ロシア軍はウクライナ軍に対して3対1〜4対1の兵力優位を持っており、58万人のロシア兵が16万人のウクライナ戦闘部隊に対峙している。
●ウクライナ軍は重要地域で6対1〜2対1の劣勢にあり、防衛線の隙間を埋めるためにドローンに大きく依存している。
●ドローン戦争では、量・質ともにロシアに有利な状況へと移行しており、ウクライナにはロシアの毎日の空爆に匹敵する滑空爆弾がない。

Negotiation Challenges(交渉の難しさ)
●ロシアが求める「ウクライナの中立化・領土の割譲・外国軍の不在」は、ロシア国内では最小限の要求と見なされているが、ウクライナと米国にとっては到底受け入れられない。
●交渉は戦争終結の手段というより、物語(ナラティブ)を制御するための手段であり、真の和平努力とは言えない。
●トランプはこの戦争の詳細に通じておらず、ロシアの決意とウクライナの交渉力を過小評価している可能性があり、外交的罠にはまるリスクがある。

Geopolitical Implications(地政学的影響)
●ロシアの要求は冷戦後の秩序を終わらせる可能性があり、NATOの弱体化とヨーロッパの分裂を引き起こすと見られている。
●ヨーロッパの指導者たちは、ベトナム・アフガニスタン・フーシ派に対する米国の失敗にもかかわらず、米軍の力の限界を認めることができていない。
●プーチンの後継者はより強硬で反西側的になる可能性が高く、深刻な衝突のリスクが高まっている。

Western Narrative and Support(西側のナラティブと支援)
●欧州におけるナラティブ統制により、ロシアの視点に関する議論は禁じられ、事実に基づかない世界が作り出され、理性的な対話が不可能になっている。
●「ウクライナが勝てる」というナラティブを維持することは、西側の軍事支援を正当化するために必要不可欠である。
●ナラティブと現実が乖離した場合、ウクライナ人は「NATOの道具」として使われていると感じ、本当の支援がないと失望する可能性がある。

Historical Context(歴史的背景)
●メルケルとサルコジは2008年にウクライナのNATO加盟に反対し、それが愚策であると認識していたが、米国の圧力に抗しきれなかった。
●米国の上院議員81名がロシアに対する大規模制裁を支持しており、トランプのウクライナ政策に選択肢の余地を与えていない。

Future Challenges(今後の課題)
●トランプはイラン・ガザ・東アジアといった複数の地域で同時に課題に直面し、外交政策の選択肢が複雑化している。
●トランプは「世界秩序の再構築能力」を誇張し、中国との経済戦争やイラン核合意の再交渉などの公約を実行できずに苦しんでいる。
●ウクライナの動員政策は崩壊しつつあり、一方ロシアは毎月・毎年の動員に成功しており、ウクライナは絶望的な状況に置かれている。
●ロシアは、停戦後に再び戦争が始まったミンスク合意のようなシナリオの再来を恐れている(そのために、ウクライナとNATOを打ち負かすために大きな損害を被ってきた)。

出典:Russia Won the War – John Mearsheimer, Alexander Mercouris & Glenn Diesen

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