目 次
- はじめに
- 国内体制という評価軸
- 自由と民主主義の指標
- 外交姿勢という評価軸
- 内政干渉と軍事介入
- アメリカによる内政干渉と軍事介入
- ソ連による内政干渉と軍事介入
- ロシアによる内政干渉と軍事介入
- 中国による内政干渉と軍事介入
- 内政干渉と軍事介入
- 国内体制と外交姿勢
- 帝国と植民地
- 日本の位置
- 国内体制と外交姿勢の統合
- 世界の再構築
- これからの世界
- ジェフリー・サックス教授のコメント訳
はじめに
今回は、国家の評価についての話です。その入り口として、2022年にアテネ民主主義フォーラム(ATHEN DEMOCRACY FORUM)の「民主主義の10年: 中国とロシア」と題する討論会でのコロンビア大学のジェフリー・サックス教授のコメントを取り上げます。このイベントは2022年9月29日、ギリシャのアテネで行われました。
この6分ほどの短い切り取り動画の中でサックス氏が伝えようとした論点は二つあったようです。一つ目が民主主義という概念の文化相対性、もう一つが民主主義国家の、ウチとソトの二つの顔ということです。
サックス氏の論点ではないですが、もう一つ見どころを付け加えると、司会をやっていたニューヨーク・タイムズの記者の狼狽ぶりです。サックス氏の率直な発言をなんとか遮ろうとして必死になっています。下の動画の5:19辺りから見てみて下さい。最後は司会者がほとんど叫んでます。はからずも、彼の態度によってアメリカ民主主義の欺瞞性が本領を発揮してしまったのは、皮肉な話です。
注:全文訳はこの記事の一番下に載せておきます。
一つ目の論点で、中国とロシアに触れるので、興味深いところですが、本稿では今回のテーマである国家の評価に関係するものとして、サックス氏の二番目の論点に焦点を当てます。下にまず彼の言葉を引用します。
And one more point I want to make about democracy because we’re in a democracy forum where we we treat democracy as the good. The most violent country in the world in the 19th century by far was perhaps the most democratic or second most democratic and that was Britain. You can be democratic at home and ruthlessly imperial abroad. The most violent country in the world since 1950 has been the United States (Interrupted)…
訳:もうひとつ、民主主義について申し上げたいことがあります。私たちは民主主義フォーラムに参加していますが、そこでは民主主義を善として扱っています。19世紀に世界で最も暴力的だった国は、おそらく最も民主的だった国、あるいは2番目に民主的だった国であり、それはイギリスでした。(しかし)国内では民主的でも、国外では冷酷な帝国主義を貫くことができる。1950年以降、世界で最も暴力的な国はアメリカだ(遮られる)。。。
サックス氏は、なにか天才的に奇抜なことを言ったわけではなく、国際関係を見る際のとてもシンプルな枠組みを前提として話を始めようとしていました。LIVE 56『戦争と人道:基礎3ーパレスチナ』で話したことなのですが、我々はほとんど無意識に作り上げられたイメージを基にして国家を評価しがちです。
大手メディアでも、SNSでも、床屋でも、国際関係について語る人がたくさんいますが、そこで語られる国家に関して語り手の評価から自由であることは決してあり得ないです。そして、その語り手にとっての「良い国・悪い国」という印象、あるいは「ポジティブ・ネガティブ」な感情がその話の前提になっています(国にそもそも「良い・悪い」があるのかという議論もありますが、とりあえずその問題はここでは棚上げにして先に進みます)。
そのような「良い国」「悪い国」の基準は語り手によって違っていますが、サックス氏が話の前提としているのは、国家の評価を、「国内体制」と「外交姿勢」の二つの観点から見るということです。
彼が例に出している19世紀のイギリスは、当時、世界で1番か2番目に民主的な国だったが(国内体制)、同時に世界で最も暴力的な国であった(外交姿勢)とサックス氏は語っています。そして、1950年以降のアメリカの例を話そうとした時に、遮られました。その先は聞かなくても分かるでしょう。聴衆の呆れ顔の笑顔がそれを物語ってます。
下の図は、その「国内体制」と「外交姿勢」という二つの軸で国家を評価する方法をモデル化した道具です。以下、順を追って説明していきます。

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