【Caitlin’s】トランプなき後のMAGA

2025-07-262025-07-27

これは、Ray of Letters メンバーシップのメンバー限定記事です。詳しくは下記ボタンをクリックして、案内をご覧ください。

「トランプなき後のMAGA」というコンセプトを考えたことはあるでしょうか？「なき」の意味は「亡くなった」とか「正解から引退した」とか「認知症が悪化した」と解釈するのが標準的でしょうが、そうではなく、「トランプがMAGAを放棄した」というシナリオもあり得ます。

MAGAは、 “Make America Great Again（アメリカを再び偉大に）” の頭文字を取ったスローガンですが、ドナルド・トランプは、2016年の大統領選で使い始めました。

①アメリカファースト、②反グローバリズム、③移民規制の強化、④伝統的価値観の重視、⑤エリート層や「ディープ・ステート」への反発などを掲げ、体制権力、既得権益層、富裕層などに対する一般人の不満と怒りを吸収し、トランプ支持者を集めました。MAGAは今や彼らの政治的・文化的アイデンティティとして機能していると言えます。

そのMAGAの創始者であるドナルド・トランプ自身がMAGAを脱退するなんてことがあり得るのか？イエス・キリストが「キリスト教、辞めるわ」とか、ムハンマドが「イスラム教、もうええわ」とか、ゴータマ・シッダールタが「仏教？知らんがな」とか言うことが想像できないくらい、「トランプなき後のMAGA」は考え難いコンセプトです。

ところが、今それが起きている。
この記事の現題は、”Trump Has Completely Dropped His “Populist” Act” というものです。直訳すると「トランプはポピュリスト的演技を完全にやめた」ということになります。ポピュリストという概念は、MAGAよりも広い範囲を意味しますが、MAGAもポピュリズムの一部です。これに関しては、「ブッシュ風味のトランプ、イランの政権転覆を目指す」という記事で下のようなチャートを使って説明しているので、そちらも参照してください。

上のチャートで言えば、水平線の下がポピュリズムと呼ばれる運動あるいは思想です。サンダースやAOC（Alexandria Ocasio-Cortez）は左派ポピュリズムと呼ばれ、MAGAやQAnonは右派ポピュリズムと呼ばれます。

ケイトリンさんが、「トランプはポピュリスト的演技を完全にやめた」と言うのは、このチャートで言えば、トランプがよろよろよろっと水平線を越えて上の方に自分のポジションを変えてきたことです。

トランプが大統領になってから言い始めたこととして、彼女が具体的に指摘するのは、「イスラエルが最優先だ」、「言論の自由は忘れろ」、「ウクライナ戦争は継続だ」、「エプスタインの捜査なんかやめてまえ」のようなことです。これらはMAGA的な言動とは真逆です。

結局、トランプはディープ・ステートとの戦いなんてする気もなく、ポピュリストなんて演技ももうやめたのだというのがケイトリンさんの見方です。つまり、最初からそれは芝居だった。二大政党制のアメリカで、どっちが大統領を出したとしても、アメリカはどうせ同じことを繰り返すだけだというのが、この記事に限らず、ケイトリンさんの一貫した見方です。

トランプ批判者の多くは、トランプを真正のポピュリストとみなして批判していますから、ケイトリンさんの立場からのトランプ批判は成立しなくなります。ケイトリンさん的に言えば、トランプは、最初から水平線の上の方にいる体制権力・既得権益層・富裕層の代弁者に過ぎなかったわけで、トランプはその裏にいるディープ・ステートの操り人形ということになります。この立場から見ると、トランプを熱烈に支持したMAGA層は完全に裏切られたことになります。そうするとトランプに対するMAGA層の大反逆が起きる可能性が出てきます。

実際、その兆候がもう出てきています。タッカー・カールソン（Tucker Carlson）や、マージョリー・テイラー・グリーン（Marjorie Taylor Greene）や、スティーブン・ケヴィン・バノン（Stephen Kevin Bannon）などのMAGAの中核的支持者がトランプ批判を口にし始めています。

トランプの変化に対するもう一つの見方は、トランプはえらそうにしてるが元々気が弱くて、大統領になってから猛烈な圧力をディープ・ステートやシオニスト団体から受け、ふらふらとよろめいているというものです。

「トランプにはそもそも一貫した思想などというものがない、あるのは、自分が気持ちよくなることが究極の価値であるという原理しかない」と私は何度か書いていますが、その見立てはこの見方に当てはまります。トランプにはポピュリズム的な策略などないという見方です。

しかし、もはやどっちの見方であろうと、その違いはあまり重要ではないでしょう。結果として、トランプとMAGAの乖離が現実に現れた今となっては、それが次にどういう結果を招くのかが問題です。

今、トランプの脱MAGA的傾向をアメリカ政界は危惧しているでしょうか？