【Caitlin’s】これらの虐待は、人々が力ずくで止めるまで続く

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目次

  1. 抵抗権/革命権
  2. 皆殺しは有効か?
  3. これらの虐待は、人々が力ずくで止めるまで続く

引退してから、この5年間ほど、日本人を対象にしてライブ・ウェビナーで話したり、書いたりしていて、ずーっともらう一つの質問がある。それは、

私たちに今、何か出来ることはありますか?

という質問だ。
今回のケイトリンさんの記事はダイレクトにそれに答えている。
この短い記事の構成はこうなっている。
①まず、現状の延長線を延ばていく未来について叙述する。読めば直ぐ分かるが、これは未来ではなく、もはや現状になっているので、延長線の必要もない。

②そして、次に投票制度(選挙)が機能していない現状を指摘する。そこで何が起きているか。悪事の実行者の循環が起きていることを説明する。

③では、私たちに出来ることは、何が残っているのかという結語に入って行く。
ここが一番重要なところなのだけど、最初この記事を訳すかどうか迷った。というのは、誤読される恐れが非常に高いと思ったからだ。理由はここに革命(revolution)という言葉が入っているからだ。こういう一文がある。

私たちが、彼らの虐待を我慢するよりも革命のほうがましだと決断した瞬間に、彼らは終わりだということも分かっている。

革命という言葉で一般に思い浮かべるのは、権力に抵抗する暴力的な反乱だろう。実際、SNSでも「アメリカ憲法は人民の抵抗権・革命権(どちらかの訳語が日本ではしばしば使われる。以下、「抵抗権」に統一する)を規定しているのだから、米国民はトランプ独裁政権に反撃すればいいのだ」のようなことを書いている人を既に見たことがある。アメリカに「内戦」がやってくるという論調のインフルエンサー(学者/評論家/お笑い芸人等)もいる。

これらの大きな問題は、アメリカ憲法と抵抗権に関する何重かの誤解/無理解に基づいていることだ。もう一つ、理論的には些細だが、現状認識が非現実的であるという問題もある。

抵抗権/革命権

市民が国家権力に抵抗すれば良いのだという文脈でよく引用されるのが、米国各州の州兵(National Guards)の存在だが、ここにも誤解が存在する。彼らの描く像は、各州が立ち上がって州兵が連邦政府軍と戦うという図だが、それは現在の州兵を規定する米国法のもとではあり得ない。トランプ大統領が勝手に州兵を治安維持という名目で使い回しているからではない。現行法によって、州兵は既に連邦政府の指揮下に組み込むことが出来るからだ。

どうしてこういう誤解が生まれたのか?それは根も葉もない無根拠な誤解ではない。州兵の起源は、アメリカがまだ大英帝国から独立する前の17世紀の植民地時代に遡る。当時のマサチューセッツ湾植民地などでは常備軍は存在しない。その代わり、彼らは、市民が集まって民兵(militia)組織を整え始めた。実際、1775年の独立戦争開戦時、最初に国家権力(英軍)と交戦したのは、彼ら民兵だった。武装した市民こそが共和国(当時の植民地)を守るという思想がそこには強固に根付いていた。これがアメリカの独立宣言(1776年)に明確に反映される。

“That to secure these rights, Governments are instituted among Men, deriving their just powers from the consent of the governed;
That whenever any Form of Government becomes destructive of these ends, it is the Right of the People to alter or to abolish it, and to institute new Government, laying its foundation on such principles and organizing its powers in such form, as to them shall seem most likely to effect their Safety and Happiness.”

これを日本語にすると、以下のようになる。

「これらの権利を確保するために、人々の間に政府が設けられ、その正当な権力は被治者の同意に基づく。
そして、いかなる形態の政府もこれらの目的を破壊するに至ったときは、人民がそれを変更または廃止し、
自らの安全と幸福を最もよく実現すると思われる原理に基づいて新しい政府を樹立することは、人民の権利である。」

これが、日本語世界で、「抵抗権」とか「革命権」と呼ばれるものを表す部分であるのだが、直ぐに気が付かれるように、ここに「抵抗権」とか「革命権」という言葉は出て来ない。「人民がそれを変更または廃止し・・・新しい政府を樹立することは、人民の権利である」という部分を、日本語世界では、「抵抗権」とか「革命権」と名付けている。現政権を「変更または廃止し、新しい政府を樹立する」のだから、意味としては「革命権」も「抵抗権」も間違っていないだろう(これに続く議論は、抵抗権あるいは革命権を成句として扱う問題、アメリカ憲法の抵抗権に関する沈黙と明示の意味、各国憲法は抵抗権をどう扱っているか、抵抗と革命の根拠としての憲法制定権力のパラドクス、抵抗権の裏返しとしての国家緊急権(緊急事態条項)へと繋がるのだが、憲法リテラシーで毎回触れる話なのでそちらへ譲る)。

だから、市民には抵抗権がある、州兵(かつての民兵)を使って、国家権力(かつての英国、現在の連邦政府)と戦えば良いのだという意見の根拠は、ここにある。

ところが、独立後、この事情が変わってしまった。
まず、1792年民兵法で、①各州が民兵を保持する義務が規定されたが、同時に②連邦政府が非常時に州民兵を動員できる権限
が定められた。つまり、これによって、原理的には、民兵(後の州兵)の位置が反転し始める。

20世紀になると、これがさらに明確になる。1903年(ディック法)及び1916年国防法によって、
①州兵は平時は州知事の指揮
②戦時は連邦軍(陸軍)の一部として動員
という制度が確立された。つまり、トランプ大統領が引っ掻きまわす100年以上前に、民兵(militia) は、 近代的予備軍としての州兵(National Guards)への転換を完成したということだ。今でも、州兵は州知事の指揮下であり、連邦政府(トランプ大統領)が勝手に使うことは許さないと主張する知事がテレビに出てきたりする。確かに半分はその通りだが、半分はそうではない。これは法廷闘争になる案件だ。

内戦論が出てくるのは、この辺りになる。例えば、半分の州が州兵を使って連邦政府に抵抗し、もう半分の州が連邦政府側について抵抗側の州と戦うというシナリオだ。エンタメ作品的には興味深いが、後者には世界最強の連邦軍が付いているから、前者に勝ち目は全くない。つまり、法と制度の側面からも、現実の実力からも、州兵を使った抵抗権の行使というシナリオは実現する可能性がない。

このケイトリンさんの記事で、革命という言葉が使われているからと言って、彼女は武装蜂起的な扇動をしているわけではない。しかし、彼女は次に投票制度、つまり選挙の無力さを言及するので、ますます武装蜂起の煽動をしているのだと思う人もいるかもしれない。

皆殺しは有効か?

しかし、彼女が最後に到達するのは、このディストピアから抜け出す唯一の可能性は、民衆の「数の力」にあるということだ。
彼女が言っているのは、「なぜ圧倒的少数者が多数を支配できるのか」という古典的問題だ。16世紀にこれを探求したエティエンヌ・ド・ラ・ボエシ(以下ボエシ。Étienne de La Boétie, 1530–1563)という人がいる。1人の王と少数の取り巻きがなぜ圧倒的多数の民衆を支配することが出来るのかを彼は問う。

支配者が気に入らない民衆、抵抗する民衆を全員殺し、投獄したらどうなるか?支配する相手がいなくなり、彼らの支配は崩壊するという議論だ。しかし、現実には我々は自発的に隷従しているではないかと彼は問う。下に一部を抜粋する。

民衆がいったん服従させられると、自由についての記憶をあまりにも深く忘却してしまい、それを取り戻すために目覚めることすらできなくなる――そのありさまを見るのは、実に信じがたいことである。
彼らはあまりにも素直に、あまりにも進んで仕えるため、その様子を見ていると、自由を失ったのではなく、むしろ隷従を「獲得した」のだと言いたくなるほどである。

自らを隷属させているのは民衆自身であり、自分の喉を切っているのも、民衆自身である。
隷属か自由かを選ぶことができるにもかかわらず、彼らは自らの自由を捨て、くびきを引き受ける。
彼らは自分自身の害悪に同意する――いや、むしろそれを追い求めているのだ。

『自発的隷従論』

圧倒的な暴力的装置を蓄積した国家権力を相手に武装蜂起をする意味はなく、圧倒的な財力でメディアを支配し票を獲得することが常態化した選挙も民衆にとって有効な手段でなくなったら、民衆に出来ることは何が残っているか。ケイトリンさんは民衆の数の力を思い出さそうとする。デモは無駄ではないのだ。何万人、何十万人、何百万人、何千万人・・・と増えていけば、国家権力が殺戮や投獄をする意味がなくなる段階が必ず来ることを示唆している。

関心のある方はボエシの『自発的隷従論』を読まれることをお勧めする。


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