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今、イランとの戦争が迫っているという記事や動画が英語文化圏では毎日出てきます。
アメリカが次々にふっかける戦争については、ウェズリー・クラーク将軍が「7カ国を5年で潰す」というアメリカ政府の計画を公表してしまったことを思い出す人も多いと思います。その7カ国とは、イラク、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、イランです。予定より時間はかかりましたが、とうとう最後のイランまでアメリカの戦争は到着したと言えます。
目次
- ウェズリー・K・クラーク(Wesley Kanne Clark)
- 「7か国を5年で潰す」計画:
- 再び迫る、イランとの戦争の危機
1. ウェズリー・K・クラーク(Wesley Kanne Clark)
ウェズリー・クラーク将軍は、そこらのインフルエンサーとは違って、アメリカでは一目置かれている大物です。1944年生まれですから、今年81歳になります。彼は、アメリカ合衆国陸軍の退役四つ星将軍で、NATO欧州連合軍最高司令官(1997~2000年)を務めた人です。
教育:
ウエストポイント陸軍士官学校を首席で卒業後、ローズ奨学金を得てオックスフォード大学で哲学・政治・経済学(PPE)の学位を取得。
戦歴:
ベトナム戦争では歩兵中隊を指揮し、4度の負傷でシルバースターとパープルハート章を受章。コソボ戦争中のNATO作戦「アライド・フォース」を指揮し、150万人のアルバニア人を民族浄化から救いました。
政治:
2003年には2004年米大統領選挙の民主党候補指名を目指しましたが、撤退しジョン・ケリーを支持。
ビジネス:
現在は戦略コンサルティング会社「Wesley K. Clark & Associates」のCEOを務め、エネルギーや金融分野で活動。
著書:
・Winning Modern Wars: Iraq, Terrorism, and the American Empire. New York: PublicAffairs. 2003.
・Waging Modern War: Bosnia, Kosovo, and the Future of Combat. New York: PublicAffairs. 2001.など。
2. 「7か国を5年で潰す」計画:
“Winning Modern Wars” の中で、クラーク将軍は9.11後にペンタゴンで目撃した「7か国を5年で潰す計画」に言及しました。その後、この話をメディアや講演でも繰り返し語り、映像クリップとしてSNSで広く拡散されるようになりました。
現在もクラーク将軍が話している動画はたくさん見つかりますが、下の動画は、その一つで、2007年に収録されたものです。動画の下に日本語訳を載せます。
ウェズリー・クラーク:
9・11の直後、約10日後のことだった。私はペンタゴンに行って、ラムズフェルド国防長官とウォルフォウィッツ副長官に会った。
その後、下の階に降りて、かつて私の下で働いていた統合参謀本部の何人かに挨拶しようとしたんだ。すると、将軍の一人が私を呼び止めてこう言った。「サー、ちょっと来てください。話があるんです」。私は「いや、君たちは忙しすぎるだろう」と言ったけど、彼は「いえ、いえ」と。
「我々はイラクと戦争するって決めたんですよ。」これは9月20日頃の話だ(注:2001年)。
私は言った。「イラクと戦争? なぜだ?」。
彼は「わからないんです」と言った(聴衆笑)。彼はこう続けた。「他に何をすればいいかわからないんでしょう」。
私は「サダムとアルカイダのつながりでも見つけたのか?」と聞いた。彼は「いや、いや」と。「その方面では何も新しい情報はないです。ただ、イラクと戦争するって決めただけです」。
そして彼はこう言った。「テロリストに対してどうすればいいかわからないけど、うちには強力な軍があるし、政府を倒すことならできるって感じですかね」。さらに、「ハンマーしか持ってないなら、すべての問題が釘に見えるってことでしょう」と言った。
数週間後にまた彼に会いに行った。その頃には我々はアフガニスタンで爆撃を始めていた。私は訊いた。「まだイラクと戦争するつもりなのか?」と。
すると彼は「いや、それどころじゃないんです」。彼は机に手を伸ばして紙を取り上げてこう言った。「今日、国防長官室からこれが降りてきました。これは5年以内に7つの国を倒す計画を説明したメモです。まずイラクから始まって、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そして最後はイランです。」
私は言った。「それは機密文書か?」
彼は「はい、サー」(聴衆笑)。
私は「じゃあ、見せないでくれ」と言った。
それから1年くらい経って、彼にまた会ったとき、私は言った。「あのメモの話、覚えてるか?」と。彼はこう答えた。「すみませんでした、あのメモはあなたに見せてないですよ。見せてない」(聴衆笑)。
司会者:
すみません、彼の名前は何でしたっけ?
(聴衆笑)
ウェズリー・クラーク:
彼の名前は言わないよ。
司会者:
もう一度、国を挙げてください。
ウェズリー・クラーク:
イラクから始まって、シリア、レバノン、リビア、ソマリア、スーダン、そしてイランだ。
で、イランの話になると、彼はこう言うんだ。これは完全に同じじゃないけど、真実はこうだ。イランは最初から、米国がイラクにいることは脅威だと見てきた。
一方で、祝福でもある。なぜなら我々がサダム・フセインとバース党を排除したからだ。彼らには手に負えなかった相手を、我々が片付けてやった。
でも、同時に脅威でもある。なぜなら彼らは、自分たちが次に攻撃リストに載っていることを知っていたからだ。だから当然、彼らは関与してきた。イランは、イラクとの戦争で100万人もの人々を失ったんだ。そして、彼らには、長く、守りにくい国境がある。だからイラクの内部に深く関与することは、彼らの至上命題(vital interest)だった。
彼らは我々の攻撃をある程度容認していた。サダム・フセインを捕まえたとき、彼らは喜んでいた。でも、彼らは自分たちの影響力のネットワークを構築し、それを固めようとしている。時折、直接的または間接的に、反政府勢力や民兵に軍事支援や訓練、アドバイスを提供している。
その意味では、完全に同じ状況ではない。なぜなら、イランは継続的に関与していると思うからだ。その一部は正当なもの、一部は非正当なものだ。たとえば、イラク人で医療が必要な人々に眼科手術を提供していることを、戦争の理由にできるほどの罪だと非難するのは難しいかもしれない。でも、それは影響力を得るための努力だ。
米国政府は頑なにイランと彼らの認識について話し合うことを拒否してきた。その理由の一部は、米国内の政治基盤、特に右翼の支持層に代償を払いたくないからだ。また、彼らが打倒しようとしている政府を正当化するようなことはしたくないからだ。
もしあなたがイランだったら、米国が「あなたの政府は体制変更(Regime change)が必要だ」と言っている時点で、すでに米国と戦争状態にあると考えるだろう。
議会に7500万ドルを投じてそれを実行しようとしているし、テロリスト・グループを支援してイラン国内で爆破事件を起こしているらしい。もし我々が直接やってなくても、少なくともそれを知っていて奨励している可能性が高い。だから、我々がイランとの対立や危機に向かっているのは驚くことじゃない。
私のポイントは、イランが良い奴らだと言ってるんじゃない。彼らはそうじゃない。でも、力を使うのは最後の、最後の、最後の手段にすべきだ(聴衆拍手)。軍事的な選択肢はあるけど、それは悪い選択だ。
司会者:
シーモア・ハーシュが今週、ニューヨーカー誌に書いた記事の2つの主要なポイントについて、あなたの反応をお聞かせ下さい。
1つは、ペンタゴンが統合参謀本部内に特別計画グループを設立し、イランへの爆撃攻撃を計画しているという報道。
もう1つは、ブッシュ政権とサウジアラビアが、レバノン、シリア、イランを含む中東地域で秘密作戦に資金を注入し、サウジが支援するスンニ派グループを強化し、イランが支援するシーア派を弱体化しようとしていること。特に、レバノンのアルカイダと繋がりのあるジハーディスト・グループに、バンドル王子や米国の議会承認を得ていない資金を通じて、スンニ派に資金を提供しているという点です。
ウェズリー・クラーク:
その件について確認したり否定したりする直接的な情報は持ち合わせていません。しかし、サウジアラビアがより積極的な役割を担っている可能性は十分に考えられます。サウジアラビアは…
司会者:
最近、サウジアラビアを訪れていましたよね? サウジアラビアから戻ったばかりではありませんか?
ウェズリー・クラーク:
はい、 そうです。サウジアラビアは、イラクの情勢の結果に非常に大きな利害関係があると認識しています。彼らはこの地域における米国の判断を特に信頼していません。なぜなら、私たちはイラクで自らの能力を十分に証明できなかったからです。そのため、彼らは自ら主導権を握ろうとしています。
この状況が非常に複雑である理由の一つに、大きな危険があります。例えば、一部の人々が主張するように、「即時撤退すべきだ」と仮定しましょう。
確かに、それは技術的には撤退は可能です。見た目は良くないかもしれませんし、3~4か月かかるかもしれませんが、大隊を一つずつ道路に整列させ、ハンビーに射手を配置し、武器を装填して、イラクから戦闘しながら脱出することはできるでしょう。路肩爆弾がいくつかあるかもしれませんが、部隊を整然と並べれば、爆弾の脅威はほぼなくなるでしょう。狙撃が多少ある程度です。ヘリコプターを飛ばして上空支援を行えば、ほぼ確実に安全に脱出できるはずです。
しかし、問題はそこではありません。撤退後、サウジアラビアはシーア派と戦うための勢力を見つけなければなりません。その候補は誰になると思いますか?
アルカイダです。なぜなら、過激で戦闘意欲の高いスンニ派グループは、おそらくアルカイダと繋がっているグループだからです。
ここに奇妙な矛盾があります。もし私たちが早期に撤退すれば、非常に強力なスンニ派過激派グループの脅威を逆に増大させることになります。このグループは、サウジアラビアの公然たる資金支援によって正当化され、イラク内での足がかりを維持し、イランの拡大を阻止しようとするのです。
3. 再び迫る、イランとの戦争の危機
[原文情報]
タイトル:Staring Down The Barrel Of War With Iran Once Again
著者:Caitlin Johnstone
配信日:JUN 12, 2025
著作権:こちらをご覧ください。
原文の朗読:こちらで 聴けます。
どうやらアメリカは、またしてもイランとの戦争の瀬戸際に立たされているようだ。
アメリカ当局者たちは、イスラエルによるイランへの攻撃が差し迫っている可能性があると報道陣に伝えており、地域内の米軍基地からは軍関係者の家族の避難支援が行われている。
こうした動きのなかで、テヘラン(イラン政府)は、「もし攻撃を受ければ、射程内にあるすべての米軍基地を攻撃する」と警告している。報道によれば、約5万人の米兵が10カ所の基地に駐留しており、それらが攻撃対象となる可能性があるという。
アメリカはまた、イラクの大使館を撤収中であり、クウェートおよびバーレーンの大使館からは「必要不可欠でない職員」の退去を許可している。
US Anticipating Potential Israeli Attack on Iran
The US is evacuating personnel from its embassy in Iraq
by Dave DeCamp@DecampDave #Iran #Israel https://t.co/xZe1B8nPbg pic.twitter.com/T9VXPhljbc— Antiwar.com (@Antiwarcom) June 11, 2025
X投稿訳:
Antiwar.com @Antiwarcom
イスラエルによるイラン攻撃の可能性を予期する米国
米国はイラク大使館から職員を避難させている by デイブ・デキャンプ
@DecampDave
#Iran #Israel
https://news.antiwar.com/2025/06/11/us-reducing-personnel-in-the-middle-east-amid-iran-tensions/
報道陣からこれらの退避措置について問われたトランプ大統領は、「あそこは危険な場所になる可能性があるから、彼らは退避させられている。何が起きるか見てみよう。退避するよう通知を出した」と述べた。
トランプは現在、核交渉が決裂した場合にはイランを攻撃する用意があることを公然と宣言しており、交渉がまとまる可能性については「以前よりずっと自信がない」と語っている。
「彼ら(イラン)が合意しなければ、核兵器を手にすることはない。合意したとしても、核兵器を持つことはない」と、同大統領は水曜日に公開されたインタビューの中で語り、「戦争や死者を出さずに済むなら、その方が望ましい」と付け加えた。
もしアメリカがイスラエルによるイラン攻撃を支援し、その報復としてイランが米軍兵士多数を殺害すれば、米国とイランの全面的な直接戦争に発展する可能性がある。
これまで何度もこの場で述べてきたように、それは中東にとって最悪の悪夢シナリオであり、現在この地域で起きている他のすべての恐ろしい暴力行為をはるかに凌ぐ惨事を引き起こすことになる。トランプの現国家情報長官であるタルシ・ギャバードが2019年に(彼女がまだトランプの好戦姿勢に公然と反対していた頃に)こう語っていたとおり、「アメリカ国民が知っておくべき重要なことは、イランとの戦争はイラク戦争が『お散歩』に見えるほどの惨劇になる、ということだ」。
War with Iran would make the Iraq War look like a cakewalk. pic.twitter.com/ZM4iNV9654— Tulsi Gabbard 🌺 (@TulsiGabbard) May 22, 2019
X投稿訳:
Tulsi Gabbard @TulsiGabbard
イランとの戦争は、イラク戦争を楽勝のように見せるだろう。
これが何度も繰り返されるなんて、本当に愚かしいことだ。こんな事態は、アメリカがイスラエルというジェノサイド(集団虐殺)とアパルトヘイト(人種隔離)を行う国家を、何があろうとも支援するのをやめさえすれば、完全に避けられることなのだ。ワシントンが2023年以降、イスラエルによる好戦行為やジェノサイドのすべてにもかかわらず、変わらず大量の武器を送り続けているという事実は、アメリカがイスラエルのすべての行動を支持していることを意味する。
もしイランとの戦争が起これば、欧米の論客や政治家たちは、またもやアメリカが「中東の戦争に引きずり込まれた」だの、トランプが「だまされて戦争に乗せられた」だのと弁解することだろう。だが、決してだまされてはいけない。アメリカはいつでもこの道を引き返すことができたし、今もまだできる。
もしこのパンドラの箱が開けられるとすれば、それはアメリカ帝国が自らの意志でそれを開けると選んだからに他ならない。
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