【Caitlin’s】ブッシュ風味のトランプ、イランの政権転覆を目指す

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原題の「George Dubya Trump Seeks Regime Change」に使われている「George Dubya Trump(ジョージ・ダビヤ・トランプ)」って誰?ってなる人がほとんどだと思うので、まず、そこから始める。

“Dubya(ダビヤ)”は米南部訛りで英語の “W” を発音したもので、「George W. Bush(ジョージ・W・ブッシュ)」のニックネームとして、ブッシュ大統領の無知さ・軽薄さ・戦争好きの象徴として、アメリカの風刺文化で使われてきた。

かつてブッシュ政権が「イラク戦争」を起こす際に使った「体制転覆(regime change)」の論理と大量破壊兵器(WMD)というでっち上げの二本立てを、トランプが今イラン攻撃においてそっくり真似していることを揶揄して、ケイトリンさんは、「George Dubya Trumpという呼び方を思いついたのだろう。そのままではなんのことか分からないと思うので、「ブッシュ風味のトランプ」と訳すことにした。

さて、これには、ただのふざけた戯言以上の意味がある。トランプのイラン爆撃に対するアメリカ人のリアクションは、今、続々と出てきているが、「ほれ見たことか。言わんこっちゃない」というしたり顔から、「トランプよ、お前もか」という嘆き顔まで様々な情緒的反応があって実に興味深い。

すべてに共通しているのは、トランプの座標のズレを見出しているということだ。そのズレがなんであるのか、そのズレの評価については、もうちょっと先の話題にしたいが、現時点では、とりあえず可能性としてのズレについて言及しておこうと思う。

座標ってなんなのかだけど、下のチャートは、アメリカを蝕んでいる主な政治的イデオロギーの見取り図として作った。縦軸をエリーティズム・ポピュリズム、横軸は古典的な右派・左派という軸にして、主なイデオロギーを4象限の中に位置付けた。(しかし、予め断っておくが、こんなものに科学を期待しないで欲しい。世上に氾濫するナラティブを整理すると大方こうなるだろうという程度のものだ。)

画像

トランプを探せ!

この中で、トランプの定位置は第四象限の右下辺りであったはずだ。ところが、トランプはイラン爆撃をやった。「ところが」というのは、MAGA的信条では、金も人命も損失の大きい軍事的干渉の優先度が極めて低いからだ。それがしばしばトランプが孤立主義(Isolationist)の疑いをかけられる理由でもある。

MAGAとは対照的に、共和党のジョージ・ブッシュ大統領はネオコンの位置から、民主党のオバマ大統領とバイデン大統領はグローバリスト・リベラルの位置から、大義名分をケツからひり出して戦争をふっかけてきた。それ故に、彼らは干渉主義(Inteventionist)と罵倒される。

トランプのイラン攻撃によって、トランプ評に混乱が発生しているのはそのためだ。強力なMAGA信奉者であるタッカー・カールソンや、MAGAの狂犬スティーブン・バノンは、トランプのイラン攻撃を止めようと必死になって発信していた。

トゥルシー・ギャバード国家情報長官は、極めて正攻法で、ネオコン、グローバリスト、リベラルによる世界に対する帝国主義的干渉を非難してきた。

5月13日にサウジアラビアで行われた投資会議の演説では、トランプはこれまでのグローバリスト的アプローチ、ネーション・ビルディングという大義名分での干渉から決別すると宣言したのだ。もちろんスピーチ原稿は裏方が書くのだが(トランプは何も理解していなかった可能性が高い)、これが示唆するのは、トランプ政権内では、ギャバード的な人も少なからずいるのだろうということだ。

今、ギャバードとトランプの関係がギクシャクしていると報道されているが、その理由は、ギャバードが広島に言って、核廃絶の動画を作ったからとか、ギャバード人気にトランプが嫉妬しているとかだけではないように思う。問題は、トランプ自身の彷徨にある。

MAGAの定位置からふらふらと出て行って爆弾を投げて帰ってくるオヤビンはいつか元のさやに収まるのか、あるいは忠実な手下たちに愛想を尽かされるのか、まだ分からない。


[原文情報]
タイトル:George Dubya Trump Seeks Regime Change In Iran
著者:Caitlin Johnstone
配信日:JUN 23, 2025
著作権:こちらをご覧ください。
原文の朗読:こちらで 聴けます。

ブッシュ風味のトランプ、イランの体制転覆を目指す

ケイトリン・ジョンストン
2025年6月23日

トランプ大統領がTruth Socialに下のような新たな投稿を行った。

brb — starting up PNAC again… pic.twitter.com/AaKtBfn7hi— Bill Kristol (@BillKristol) June 22, 2025

X投稿訳:
「『体制転覆』なんて言葉はポリコレ的に正しくないが、もし現在のイラン政権が“MAKE IRAN GREAT AGAIN(イランを再び偉大に)”できないのなら、どうして体制転覆があってはいけない???MIGA!!!」

ここには突っ込みどころがたくさんある。

まず第一に、「『体制転覆(Regime Change)』なんて言葉はポリコレ的に正しくない」と切り出すあたりが実に彼らしい。彼は、ネオコンが昔から押しつけてきた戦争アジェンダを、「進歩的な連中と戦う文化戦争の一部」として見せかけようとしている。彼は、自分の支持層に対して、「体制転覆戦争でビル・クリストル(Bill Kristol)やジョン・ボルトン(John Bolton)のような戦争屋に味方することこそが、目覚めた進歩主義者たち(woke agenda)に抗うことなのだ」と言っているのだ。

第二に、トランプがこの「体制転覆」支持を打ち出したのは、彼自身の政権関係者が「大統領はイランの体制転覆を求めているわけではない」と断言した直後のことである。

副大統領のJ・D・ヴァンスは報道陣に対して、「我々の政権は『体制転覆は望まない』という立場を極めて明確にしてきた」と語り、国防長官のピート・ヘグセットも「トランプのイランへの攻撃的姿勢は体制転覆を目的としたものではない」と述べたばかりだった——ところが、トランプはすぐさまスマートフォンを取り出し、彼らの発言を台無しにしてしまったのだ。

さらに注目すべきは、トランプが使った「MIGA」という略語である。ここでは「Make Iran Great Again(イランを再び偉大に)」の意味として用いられているが、数年来、アメリカの反イスラエル右派の間では「Make Israel Great Again(イスラエルを再び偉大に)」という皮肉を込めて使われてきた表現である。

MAGA運動内部にある「イスラエル第一」的な傾向を揶揄するために使われてきたこの略語を、まさに「トランプ政権はイスラエルの手先だ」という批判が最高潮に達しているこのタイミングで投稿するとは——極めて世情に疎いのか、あるいはGoogle検索結果を操作しようとしているのか、どちらかだろう。

この投稿に対し、筋金入りのネオコンであるビル・クリストルは大喜びで反応し、「ちょっと待ってろ——PNACを再始動するぞ」とツイートした。PNAC(Project for the New American Century:新アメリカ世紀プロジェクト)は、イラク戦争をワシントンに推進したことで悪名高いネオコン系シンクタンクであり、クリストルが共同設立者の一人である。

この投稿は、トランプが自らの熱狂的支持層に向けて、「イランの体制転覆を応援する時が来た」と伝えるサインである。彼は、かつてジョージ・W・ブッシュが用いた体制転覆戦争の脚本をそっくりそのままなぞっており、一方で「ワシントンの沼を干上がらせ、戦争を終わらせる」といったポピュリズムのメッセージで得た支持に乗じようとしている。

だが今や彼は、ワシントンの最悪の「沼の怪物」たちから称賛され、最悪級の戦争に対する支持を扇動しようとしている。

彼をこう呼ぶべきだろう——ジョージ・“ダビヤ”・トランプ。

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