エコノミック・ヒットマン(EHM)とは、世界中の国々を騙して莫大な金をかすめとる、きわめて高収入の職業だ。彼らは世界銀行や米国国際開発庁(USAID)など国際「援助」組織の資金を、巨大企業の金庫や、天然資源の利権を牛耳っている富裕な一族の懐へと注ぎ込む。その道具に使われるのは、不正な財務収支報告書や、選挙の裏工作、賄賂、脅し、女、そして殺人だ。彼らは帝国の成立とともに古代から暗躍していたが、グローバル化が進む現代では、その存在は質量ともに驚くべき次元に到達している。
かつて私は、そうしたEHMのひとりだった・・・(『エコノミック・ヒットマン』序文から)
まるで映画の宣伝文句のような華々しい序文に比べると、中には非常に地味でフラストレーションに満ちた日常、あーそーそーと思わず、もがいてしまうような見慣れた風景が描かれている。トンでも本に位置づけるのは惜しい本だ。
実態として起こっていることはトンでもないことの連続なのだけど、とても興味深いのは彼らが確信的な点だ(著者自身はそれが揺らぐ例外の一人だったわけだけど)。同様のことをやるはめになり、同様の批判を浴びている組織はいくらでもあるが、そこで働く人間の多くはもっとナイーヴで何をやっているのか分からないと思う。同じことの裏と表ではあるのだが。
サウジアラビアの発展過程、米軍のパナマ侵攻、ノリエガ逮捕、イランの革命、チャべスの米対決姿勢、イラク戦争、その他なんでもありかという内容。思わず苦笑するような記述もよく出てくる。
現代の奴隷商人は、わざわざアフリカのジャングルに分け入って、チャールストンやカルタゲナやハバナのせり売り台で高値で売れそうな最高の「売り物」を探す必要はない。単に悲惨な状況にある人々を雇い、工場を建設し、ジャケットやブルージーンズ、テニスシューズ、自動車やコンピュータの部品など、彼らが選んだ市場で売れる何千という商品をつくらせればいいだけだ・・・・
彼らは自分たちは正しいと思っている。珍しい場所や古代遺跡の写真を家に持ち帰り、子どもたちに見せる。セミナーに参加して、互いに肩をたたきあっては、遠い異国の風変わりな習慣に対処するための、ちょっとしたアドバイスを交換しあう・・・」(”現代の援助”業の人をかつての奴隷商人に例えている)。
大多数は単にビジネスやエンジニアリングの世界やロースクールで教わった仕事をこなしていただけだし、何が成功で何が失敗なのか、システムのあり方を身をもって示す私のような上司の指示に従っていただけだった。そして、彼らは自分が悪事の片棒を担いでいるなどとは思わなかったし、楽観的な見方をする者は、貧しい国々を助けているとさえ思っていた。
時代が変わるにつれ、呼ばれ方は変わってきたにしても、それぞれの時代の帝国にこういう職があったという指摘はおもしろい。それぞれの時代のそれぞれの帝国のこういう職能集団をもっと具体的に知りたいものだ。
グラウンド・ゼロに行って、そこで出会ったアフガン人と話をする場面なんかは、そのまま映画になりそうだった。
全般にやや懺悔っぽいのが気になるかもしれないが(そのために書いたようなのでしょうがない)、まちがいなくおもしろい。
書籍紹介
『エコノミック・ヒットマン 途上国を食い物にするアメリカ』ジョン パーキンス (著), 古草 秀子 (翻訳)
これも残念ながら、絶版のようです。Amazonには中古品が出ています。突拍子もない話のように感じるかもしれませんが、陰謀論みたいなものではありません。
Tips
チップしてもらえたら、嬉しいです
コメント