【Overseas-37】イランの最大の教訓?金正恩はすべてにおいて正しかった。

これは、Ray of Letters メンバーシップのメンバー限定記事です。詳しくは下記ボタンをクリックして、案内をご覧ください。

目次

  1. 通じない皮肉
    • 自立した技術システムと国家の自立
    • 金正恩天才論
    • 金正恩狂人論
  2. イランの最大の教訓?金正恩はすべてにおいて正しかった。
    • 教訓1:核兵器は必ず保有すべきだが、それは国際的な監視の外で開発しなければならない
    • 教訓2:外交は、無意味どころか有害である
    • 教訓3:すべての西側技術を拒絶し、完全に自国製のシステムを構築せよ
    • 教訓4:先制攻撃と民間人の標的暗殺は、もはや正当化されている

通じない皮肉

この記事は2ヶ月ほど前に書いたが、公開するのをためらっていた。記事全体が皮肉であり、細部においても皮肉が満載しているからだ。今、日本では皮肉が通じない。もちろん100%そうだとは言わない。しかし、SNSでの毎日でのやりとりを見れば分かるように、相当数の日本人が書かれてることの意味を取り違えるほど日本語文章の読解力が低く、皮肉などまったく理解できず、言葉尻をつかまえて激昂しているような人がかなりいる。

だから、この記事は危ないと思って、公開をためらっていた。皮肉は真実を伝える方法の一つであるなどとは考えたこともないのだろう。

多くの人が言うことだが、これはやはり日本の教育の圧倒的な敗北だと思う。思考することを人間から奪うのが教育になっている。伝聞でそう言ってるのではない。日米英の教育を自分が経験した結果、そう言っている。

アルノー・ベルトラン(Arnaud Bertrand)氏がアメリカによるイラン攻撃(2025年6月22日)の直後、“The key lesson from Iran? Kim Jong Un was right about everything.” (Jun 24, 2025)というタイトルの記事を発表した。直訳すると、『イランの最大の教訓?金正恩はすべてにおいて正しかった』になる。勘のいい人は、このタイトル自体が辛辣な皮肉に満ちていることに気づくだろう。

「まじめにやってバカを見た」という経験は誰にもあるかもしれない。それを国家単位で経験したのが、イランだった。「イランは何も真面目にやってない、だからアメリカに爆撃されたのだ」と思う人がいたら、少し調べて自分の目で確かめればいい。こういう時、水も漏らさない日本語の分厚い壁に阻まれる可能性は高いが。

ベルトラン氏は、この記事の中で簡潔にまとめている。その全文訳を以下に載せるが、この記事の公表をためらったのは、これを読んで「やっぱり核兵器は必要だ」とか、「国際監視から隠れて開発すればいいんだ」とか、「外交なんてやるだけ無駄だ」とか、「先制攻撃はやってもいいんだ」とか、「民間人を殺してもいいんだ」とか思う人が確実に何割かいるだろうと思ったからだ。

北朝鮮と日本は置かれた立場が違う。同じことが適用できるわけがない。少し前まで、北朝鮮は窮地に追い込まれて痩せ細った野ネズミであり、日本は都会で飽食して肥満になったドブネズミだったかもしれない。両者が健全化を目指しても進むべき道は当然違う。

ベルトラン氏が言っているのは、アメリカによるイランに対する一方的爆撃が、国家が従うべき規範とみなされているもの、つまり「核兵器はもたない・拡散しない」、「核開発は国際的に監視」、「国家間の不和は外交で解決」、「先制攻撃は禁止」、「民間人の殺戮は禁止」という規範の束をすべて無駄である、嘘であるというメッセージを全世界にばらまく結果になってしまったということだ。

イランはその全てに真面目に従っていた。そして、アメリカは全てをぶち壊しにした。この負のメッセージの罪の大きさは計り知れない。

その効果はなんだろうか?もうアメリカ(西側諸国)の言うことを聞くのはやめようと、イランだけでなく、他の国にも思わせることだ。日本にもそう結論づける人が出てくるだろう。幸いなことに、日本の政治家は世界でいったい何が起きているかほとんど理解していない。だから、イランの教訓も学ばないまま通り過ぎる可能性があることだけが、小さな救いかもしれない。

自立した技術システムと国家の自立

と書いた直後に、一つひっくり返すようなことを言わないといけない。ベルトラン氏がまとめた教訓の一つに、「欧米製の技術に頼らず、自国製のシステムを持つべきだ」というものがある。

北朝鮮は、完全に孤立した技術的エコシステムで運用されていることで有名だ。それをバカだ、マヌケだ、時代遅れだ、と非難する人は多かった。しかし、だからこそ、北朝鮮はイランを壊滅させたサイバー戦争、サプライチェーン攻撃、遠隔破壊工作から免れてきた。これは、金正恩が意図的にそうしたのか、不幸中の幸いのようなものかは分からない。

イランは、インフラやシステム全体に西側技術を統合していた。 このせいで、複数の攻撃経路において壊滅的な結果を招いた。 イスラエルの攻撃中、イラン当局は国民にWhatsAppの削除を必死に呼びかけたが遅かった。

イスラエルのヒズボラに対するポケットベル攻撃が可能だったのも、その供給業者がイスラエルのダミー企業であり、製造段階で機器に爆発物を直接仕込んでいたからだ。

イスラエルがガザで使用した「ゴスペル」や「ラベンダー」というAIシステムは、WhatsApp などからの大量の傍受通信データで訓練されていた。パレスチナ人の私的な会話が、暗殺のためのデータへと転化されていた。

アメリカによる爆撃の翌日、6月23日、イラン国会は、遅ればせながら、「ライセンス未取得の電子通信利用」を違法とする法案を可決した。これによって、スターリンクが違法化された。「国家主権の侵害」および「スパイ活動の潜在的助長」とみなされたからだ。

イランには、National Information Network(NIN) と呼ばれる政府主導の国内イントラネット網を、2013年から段階的に整備していたが、これを国際インターネットからの切り離し、外圧による通信遮断に備えて、緊急時には主要都市がこの国営ネットに切り替わる構造が制度化し始めた。

独自衛星「Qasem Soleimani」を2025年中にも打ち上げる計画が報道されている。つまり、①スターリンクなど“外部系”衛星通信の封じ込み、②NINによる国内閉域網を可能にし、③自前衛星の整備する、の3本柱で 通信主権の確保 を実現しようとしている。

このような動きを西側メディアは、市民の自由なアクセスを制限する統制だと非難するが、これはお笑いだろう。これまでは、西側インフラが強力な統制インフラを世界中を覆っていたのだから。

全地球測位システム(GNSS:Global Navigation Satellite System)をアメリカに握られているのは、各国の国家主権にとって非常に大きな脅威であることが、ウクライナ、ガザ、イランの例によって非常にはっきりと世界に知られるようになった。

アメリカのGPS依存から脱却するために、中国は独自に「北斗(Beidou)」を開発・運用している。イラン、パキスタン、ベネズエラ、サウジアラビア、アフリカ諸国などが既に北斗システムのユーザーになっている。

ロシアは、自前の全地球測位システム(GNSS)である、GLONASSを開発・運用しており、2022年2月からは、中国とGLONASSとの相互運用に関する協定を締結し、中国とロシアは、「北斗(Beidou)」とGLONASSの両システムを同期利用できる環境を構築した。

最後に日本の状況を付け足すと、日本には準天頂衛星システム「みちびき」というものがある。しかし、これは、独自の全地球測位システム(GNSS)ではなく「GPS補完型」であり、GPSが戦時などで遮断された場合、日本の交通・金融・通信・電力網の時刻同期が崩壊する危険がある。衛星システム、海底ケーブル、SNS、検索エンジンなど全て国外企業にほぼ依存しているというのが実態だろう。この情報主権が欠如した状態が安全保障の脆弱性を招くというのがイランの教訓の一つだった。これは学ぶべきだろう。

すみません、ここから先は、Overseas プランのメンバー専用エリアになってます。メンバーの方はログインすると読むことができます。

まだメンバーでない方は、こちらの案内をご覧ください。

★読んで良かったなと思ったら、投げ銭もお願いします!

  • Copied the URL !
  • Copied the URL !

Comments

To comment

This site uses Akismet to reduce spam. Learn how your comment data is processed.