長いですが、イスラエルによるガザ・ホロコーストの国際法上の問題を一度整理して正確に理解したい人、あるいはAIに尋ねて混乱した人へお勧めします。AIの回答の問題点も解説しています。
[文字数:24,852字]
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Contents
- Gemini との会話
- Q1. Gemini によるイスラエルの行動の評価
- Q2. 占領国は、占領地の住民に対して自衛権は持つのか?
- Q3. イスラエルは占領国で、パレスチナ人は占領地の住民なのか?
- Q4. イスラエルがパレスチナ人に対して自衛権を行使することは、国際法上、認められるか?
- Q5. イスラエルが自衛権の行使として行なっている軍事行動は、国際法に違反しているのか?
- Q6. その回答は前述の回答と矛盾していないか?
- Q7. 「外部からの脅威」の「外部」とは何か?
- Q8. 外部からの攻撃に対して、イスラエルの自衛権の行使は正当化できるか?
- Q9. 自衛権行使の一般的要件を見たした上で、外部からの攻撃に対して、イスラエルの自衛権の行使は正当化できるか?
- Q10. 今、イスラエルをガザから攻撃しているのは誰か?
- Q11. 「ハマスをはじめとするパレスチナの武装勢力」は占領地の外部の勢力ではないと言えるか?
- Q12. イスラエルの自衛権の行使という主張は国際法上、正当化する余地がないか?
- Q13. あなたは、自分にバイアスがかかってることを疑ったことはあるか?
- Q14. 自衛権は占領国と占領地住民の関係には適用できないといいながら、イスラエルの自衛権行使の要件を持ち出すのはなぜか?
- Q15. 「占領国による占領地の住民に対する責任」と「国主権国家が外部からの脅威に対する自衛権」の区別を明確にしていない。
- 補足解説
Gemini との会話
いまだにイスラエルによるパレスチナ人の虐殺を自衛権の行使などと正当化している人がいる。欧米と日本に。
タチの悪いのは、やたらと国際法を持ち出して、イスラエルの自衛権を正当化しようとする。ところが、彼らは学校で国際法を履修しただけの付け焼き刃か、YouTubeの解説動画のにわか仕込みで、専門家ふうなことを言う自分に酔っているのだが、こういう人たちはとっくに決着のついた話を平気でぶりかえしていることに気がつかない。楽器やスポーツや料理は、本や動画の知識だけでは専門家になれないのと同じだ。
Yoshilog LIVEで『戦争と人道:基礎』というシリーズを何度かやったが、「基礎」という言葉をタイトルにつけたのは、ちまたで小難しい言葉を使って議論している人たちは、アプリケーションばかりをやりたがって、基礎がまったくないと感じていたからだ。今の世の中ではたいていのことがそうなのかもしれない。すべてが表層的で浅はかで刹那的に見える。
自衛の権利と占領国の責任については、Yoshilog LIVEの中でも何度も話したが、このまったく異なる二つのカテゴリーをごちゃまぜにした議論が日本語メディアやSNSでは横行している。主権国家としてのイスラエルの自衛の権利と、占領国としてのイスラエルの責任は、まったく異なる法理によって規定されているのだが。
今日、まさかAIはそんなこと分かっていないはずはないだろうとふと思った。AIはとても有用であり得るし、とても有害でもあり得る。膨大な情報の蓄積やその整理は得意だが、流動的な時事情報の真偽をAIに尋ねても意味はない。膨大な偽情報を集めて整理してもらったところで、真偽判定には何の役にも立たない。
SNSでよくAIに馬鹿げた質問をしているのを見る。現在進行形で流通中のプロパガンダを正しいかどうかAIにきいても、AIがその判断の元にするのがプロパガンダ情報なのだから、回答は見るまでもない。屋上屋を重ねてるだけで、バカがバカ度を増幅する危険性がある。
さて、AIはイスラエルの行動をどう理解しているだろうか。それを試してみた。
Q1. Gemini によるイスラエルの行動の評価
ガザ・ホロコーストとはまったく異なる文脈で、Gemini と植民地化について会話していた時、Geminiが結論として以下のようなまとめをした。
「結論として、現代の国際法は、国家の主権平等、人民の自決権、武力行使の禁止、人権の尊重、差別の禁止といった原則に基づいており、植民地化の過程で用いられた上記の「道具」の多くは、これらの原則に反するものとして位置づけられます。過去の植民地支配は、その不正義性が国際的に広く認識されており、現代の国際秩序は、そのような支配を繰り返さないための規範と制度を構築しようとしています」と。
その通りなのだが、では、Gemini 的には、今のイスラエルをどう説明するかに興味を持って、以下の質問をした。Gemini の回答が下に続く。
Q1. 上記に照らし合わせて、イスラエルの行動を評価してください。
イスラエルの行動を上記の国際法の原則に照らし合わせて評価することは、非常に複雑でデリケートな問題であり、国際社会においても意見が大きく分かれています。以下に、いくつかの主要な側面を挙げ、それぞれの関連する国際法の原則と、それに対する様々な見解を示します。
領土占領と入植:
- 関連する国際法: 武力による領土の獲得は原則として禁止されています(国連憲章第2条4項)。また、占領下の住民の移送や、占領地の自国民の入植は、第四ジュネーブ条約に違反するとされています(第49条)。
- イスラエルの行動: 1967年の第三次中東戦争以降、イスラエルは東エルサレム、ヨルダン川西岸、ガザ地区(2005年に撤退)を占領し、ヨルダン川西岸には多数の入植地を建設しました。
- 評価: 国際社会の多くは、これらの占領と入植地の建設を国際法違反と見なしています。国際司法裁判所(ICJ)も、分離壁の建設に関して、入植地の建設は国際法に違反するとの勧告的意見を出しています。一方、イスラエルはこれらの地域を「係争地」と主張し、自国の安全保障上の必要性や歴史的な繋がりを根拠にその支配を正当化する立場を取っています。
武力行使:
- 関連する国際法: 武力による威嚇または武力の行使は原則として禁止されています(国連憲章第2条4項)。自衛権は例外として認められていますが、厳格な要件(差し迫った武力攻撃)を満たす必要があります。
- イスラエルの行動: イスラエルは、自国の安全保障を理由に、隣接する地域やパレスチナ自治区に対して度々軍事作戦を実行しています。
- 評価: イスラエルはこれらの行動を自衛のための措置と主張していますが、国際社会の一部や人権団体は、過剰な武力行使や国際人道法の違反を指摘しています。特に、ガザ地区への度重なる軍事作戦は、国際的な批判を浴びています。
パレスチナ人の権利:
- 関連する国際法: 人民の自決権は国際法の基本原則の一つです(国連憲章第1条2項など)。また、人種差別は国際人権法で禁止されています(人種差別撤廃条約など)。
- イスラエルの行動: パレスチナ人は、イスラエルの占領下で移動の自由の制限、経済活動の制約など、様々な権利の制限を受けていると報告されています。
- 評価: パレスチナ人は自決権を有するという国際的な認識は広く共有されています。イスラエルの占領政策や関連する措置が、パレスチナ人の自決権を侵害しているとの見解が国際社会で多く聞かれます。一方、イスラエルは、自国の安全保障上の懸念からこれらの措置は必要であると主張しています。
ガザ地区の状況:
- 関連する国際法: 占領国は、占領地の住民の福祉を確保する義務を負います(第四ジュネーブ条約)。
- イスラエルの行動: イスラエルは、2007年以降、ガザ地区を封鎖しており、人道支援物資の搬入や住民の移動が厳しく制限されています。
- 評価: 国際社会の一部や人道団体は、この封鎖を集団的懲罰であり、国際人道法に違反する可能性を指摘しています。イスラエルは、封鎖はハマスによるテロ攻撃を防ぐための安全保障措置であると主張しています。
パレスチナ人の権利:
- 関連する国際法: 人民の自決権は国際法の基本原則の一つです(国連憲章第1条2項など)。また、人種差別は国際人権法で禁止されています(人種差別撤廃条約など)。
- イスラエルの行動: パレスチナ人は、イスラエルの占領下で移動の自由の制限、経済活動の制約など、様々な権利の制限を受けていると報告されています。
- 評価: パレスチナ人は自決権を有するという国際的な認識は広く共有されています。イスラエルの占領政策や関連する措置が、パレスチナ人の自決権を侵害しているとの見解が国際社会で多く聞かれます。一方、イスラエルは、自国の安全保障上の懸念からこれらの措置は必要であると主張しています。
ガザ地区の状況:
- 関連する国際法: 占領国は、占領地の住民の福祉を確保する義務を負います(第四ジュネーブ条約)。
- イスラエルの行動: イスラエルは、2007年以降、ガザ地区を封鎖しており、人道支援物資の搬入や住民の移動が厳しく制限されています。
- 評価: 国際社会の一部や人道団体は、この封鎖を集団的懲罰であり、国際人道法に違反する可能性を指摘しています。イスラエルは、封鎖はハマスによるテロ攻撃を防ぐための安全保障措置であると主張しています。
Q2. 占領国は、占領地の住民に対して自衛権は持つのか?
日常生活で国際法の世界に触れることはないほとんどの人にとって、この回答はすべて一見正しく見えるだろう。しかし、このGemini の回答は、まったく異なる二つの法理をごちゃまぜにしているという問題がある。それぞれ単独では言っていることはおかしくないが、混ぜるとおかしな話になる。SNSで展開する議論というか、罵り合いは、どちらかが正しく、どちらかが誤っているというよりも、どこかで聞き齧った断片的知識を投げ合うので、このGemini の回答のような混乱を引き起こしている。
そこで、二つの異なる法理の区別を誘導するように、素朴な無知のふりをして、以下のような質問をしてみた。
Q2. 占領国は、占領地の住民に対して自衛権を持つのですか?
いいえ、占領国は、占領地の住民に対して自衛権を持つという概念は、国際法上一般的に認められていません。
自衛権は、国家が外部からの武力攻撃に対して、自らの主権と領土を守るために行使する権利です(国連憲章第51条)。この権利の主体は、主権国家です。
占領国は、占領地において事実上の支配権を行使していますが、その領土に対する主権を持っているわけではありません。占領は一時的な状態であり、国際法の下では、占領国は占領地の住民に対して一定の義務を負っています(第四ジュネーブ条約など)。これらの義務には、住民の保護、人道的な待遇、生活に必要な物資の供給などが含まれます。
占領下の住民が、占領軍に対して抵抗運動を行うことは、場合によっては正当な権利と見なされることもあります(ただし、国際人道法を遵守する必要があります)。しかし、この抵抗運動を占領国による自衛権行使の対象とすることは、占領の法的性質と占領国の義務に矛盾します。
占領国が占領地で治安を維持し、自国の軍隊や占領行政を守るための措置を講じることは認められていますが、これは自衛権の行使というよりは、占領法に基づく占領国の義務と権限の範囲内で行われるものと理解されます。
自衛権は、国家がその本質的な生存と独立を脅かす外部からの攻撃に対してのみ行使できる権利であり、占領下の住民は、占領国の一部とは見なされません。
したがって、占領国が占領地の住民に対して自衛権を行使するという考え方は、国際法の原則、特に国家主権の概念と占領法の枠組みからは逸脱しています。占領国と被占領住民の関係は、支配者と被支配者の関係であり、自衛権の主体となる対等な関係とは言えません。
Q3. イスラエルは占領国で、パレスチナ人は占領地の住民なのか?
Gemini は、二つの異なる法理について知識として理解していることが確認できた。次に、その知識を使ってGemini が現状をどう理解するかをみるために、以下のような質問をしてみた。
Q3. イスラエルは占領国で、パレスチナ人は占領地の住民ですか?
国際法の観点から見ると、イスラエルは1967年の第三次中東戦争以降、一部のパレスチナの領土を占領していると広く認識されています。そして、その占領下にあるパレスチナ人は、占領地の住民と見なされます。
具体的には、以下の地域が該当します。
- ヨルダン川西岸地区: 1967年以降、イスラエルが軍事占領しています。
- 東エルサレム: 1967年にイスラエルが占領し、後に併合しましたが、国際社会の大多数はこの併合を認めていません。国際法上は占領地と見なされます。
- ガザ地区: 2005年にイスラエルは軍事・入植者の撤退を行いましたが、依然として国境、空域、領海を管理しており、国際社会や国際機関によっては「占領状態の継続」と見なされることがあります。ただし、イスラエルはガザ地区の占領を否定しています。
これらの地域に居住するパレスチナ人は、占領下の住民として、国際人道法(特に第四ジュネーブ条約)によって保護されるべき対象となります。この条約は、占領国に対して占領地の住民の保護、人道的な待遇、生活に必要な物資の供給などの義務を課しています。また、占領国による占領地の自国民の入植や、占領地の住民の強制的な移送も禁じています。
ただし、イスラエルはこの法的地位の適用について、いくつかの点で異議を唱えています。イスラエルは、これらの地域を「係争地」と主張し、第四ジュネーブ条約の完全な適用を認めていません。しかし、国際社会の大多数、国際司法裁判所(ICJ)、国連などは、これらの地域を占領地と見なしており、第四ジュネーブ条約が適用されると解釈しています。
したがって、一般的な国際法の見解としては、イスラエルはヨルダン川西岸地区と東エルサレムを占領しており、そこに居住するパレスチナ人は占領地の住民となります。ガザ地区については、占領の継続という見方と、そうでないという見方があります。
Q4. イスラエルがパレスチナ人に対して自衛権を行使することは、国際法上、認められるか?
Gemini は、パレスチナ人は占領地の住民であると回答した。あと一歩だ。そうすると、自衛権の法理は認められない。そこで、それを理解しているかをみるために、次の質問をした。
Q4. イスラエルは占領国で、パレスチナ人が占領地の住民であるなら、イスラエルがパレスチナ人に対して自衛権を行使することは、国際法上、認められますか?
いいえ、国際法上、占領国であるイスラエルが、占領地の住民であるパレスチナ人に対して自衛権を行使することは、原則として認められません。
その理由は、前回の回答で述べたように、自衛権は国家が外部からの武力攻撃に対して、自らの主権と領土を守るために行使する権利であり、その主体は主権国家です。
占領国と被占領住民の関係は、支配者と被支配者の関係であり、自衛権の主体となる対等な関係ではありません。占領国は、占領地において治安を維持する義務を負っていますが、これは自衛権の行使とは区別されます。
イスラエルがパレスチナ人に対して行う軍事行動は、自衛権の行使としてではなく、占領法に基づく占領国としての治安維持活動、または外部からの脅威(例えば、ガザ地区からのロケット弾攻撃など)に対する自衛として主張されることが多いです。
ただし、後者の場合でも、自衛権の行使は厳格な要件(差し迫った武力攻撃、必要性、均衡性など)を満たす必要があり、占領地の住民全体を標的とするような集団的懲罰は国際法に明確に禁止されています。
また、占領下の住民が占領軍に対して抵抗運動を行うことは、場合によっては正当な権利と見なされることもありますが、この抵抗運動を理由に、占領国が占領地の住民全体に対して自衛権を行使するという論理は、国際法の原則と占領法の枠組みに反します。
国際社会や国際機関(国連など)は、イスラエルによるパレスチナ人に対する大規模な軍事作戦や、占領地の住民に対する過剰な武力行使について、国際法違反の疑いを指摘することが多くあります。これは、占領国が占領地の住民に対して自衛権を行使するという考え方が、国際法上正当化されないためです。
要するに、占領国は占領地の住民に対して自衛権を行使するのではなく、占領法に基づいて治安を維持し、国際人道法を遵守する義務を負っています。外部からの脅威に対しては、国家としての自衛権を行使できますが、その際も占領地の住民を不必要に巻き込んだり、集団的懲罰を行ったりすることは禁じられています。
Q5. イスラエルが自衛権の行使として行なっている軍事行動は、国際法に違反しているのか?
上出来だ。Gemini は、ちゃんと自分が言ってきたことの論理に従って、「国際法上、占領国であるイスラエルが、占領地の住民であるパレスチナ人に対して自衛権を行使することは、原則として認められません」と答えた。そこで、次に、現状にその理解を当てはめることを誘導するために、しれっと以下の質問をした。
Q5. 分かりました。イスラエルが自衛権の行使として行ってる軍事行動は、国際法に違反しているということですね?
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