タタール人の女性に「おっぱい見せて」と言った日本人男がいた

ラオスのビエンチャンに8月16日から26日まで滞在した。その頃の一幕。

ある日の夕方、ホテルのロビーから、外の喫煙コーナーに座って何事かをゲラゲラ笑いながら大声で喋ってる男が見えた。そんなに離れてないので、話が少し聞こえた。日本語だ。

その男の前に立って、その男と何かを喋っていた西洋顔の女性がスタスタとホテルのドアに向かって歩いて来る。ホテルで何度か見かけて挨拶を交わした程度だが、僕は彼女の顔は覚えていた。いつも陽気な感じの人だったが、今日はなんか様子が違う。顔がこわばっているように見える。

女性はホテルの中に入ってきて一直線にホテルのレセプションに行き、ホテルの従業員に何やら興奮した様子で話してる。一通り話し終えると、こっちを振り返って僕の方にやって来た。何やら動揺した様子で話しかけて来た。

「あの男」と言いながら、透明アクリルのホテルの壁を通して見える外の喫煙コーナーにいる日本人の男を指さした。

「あいつ、ずーっと喋ってるでしょ。スマホのカメラの向こうのもう一人の男と喋ってるのよ。それでね、あの男がスマホのカメラをこっちに向けて、私がスマホに映るようにしたの。それで、スマホの中の男が私に何を言ったと思う?胸を見せろ(Show me your breasts)って言ったのよ」。

と、ここまで一気に英語でまくしたてた。僕の頭の中は、「は?え?何?」となってる。そのスマホで大声で喋ってる男というのは、そう若くもない。40代後半くらいではないだろうか。

「何を言うの!って抗議したけど、ほら、まだあの男、今も笑って喋ってるでしょ。何も言わず謝りもしない」と憎々しそうに彼女はまたその男の方を見て言ってる。男はこちらに背を向けて座ってるので向こうからは見えない。

ひとしきり吐き出した後で、彼女は「ところで、あなた何人?」ときいたので、なんだかバツが悪いなあと思いながらも「日本人」と答えた。そうすると、驚いたことに彼女は流暢な日本語で喋り始めた。

「ああ、そう。私、アメリカで育ったけど、9年間日本に住んでたの。だから、日本語だいぶ分かる。あのスマホの向こう側にいた男はニタニタして『おっぱい見せて』と言ったのよ。分かるでしょ。で、私が抗議しても、謝らないのよ。日本人なら見せかけでも謝るでしょ」と言う。

いやー、正直なところ、もう日本人わからんとしか思えなかったので、返答に困った。英語では、彼女は確かに「Show me your breasts」と言ったが、彼女なりに薄めた言い方だったのだろう。それが『おっぱい見せて』だったとは。この日本人男の幼稚さ、アホさかげんに萎える。そりゃ、怒るわ。

彼女はとにかくなんか喋る相手が必要だったようで、しばらく彼女の話を聞いていたら、彼女は「私はタタール人」と言った。これは興味深い。

父方がロシアで生まれて、母方がハンガリーで生まれて、自分はトルコで生まれたそうだ。小さい頃に一家はアメリカのヴァージニアに移住して小さな商売を始めた。その後、彼女は大きくなってから、憧れの日本に一人で行き、9年間住んだ。

* * *

ところで、タタール人とは何かって話を厳密にし始めると全5巻くらいの本が必要になってしまうので、超簡単にまとめてしまうと、10世紀頃からモンゴル高原にいたタタール部族が先祖のようだが、13世頃チンギス・ハーンがタタール部族を征服し、キプチャク・ハン国が形成される。その中には、モンゴル系部族とトルコ系部族がいたが、やがて13世紀には、キプチャク・ハン国がロシア、ポーランド、ハンガリー、オーストリアまで攻めて行くと、ヨーロッパ人は、全部まとめてタタール人がやってきたと恐れ慄いた。

中国や日本で韃靼(だったん)と呼んでいるのも、だいたいタタール人のことだ。

現在は、全世界で700万人くらいのタタール人がいるそうだが、そのうち200万人くらいがロシア連邦内のタタルスタン共和国に、100万人くらいが同連邦内のバシコルトスタン共和国に住んでいる。だから、ロシアではタタール人は、スラヴ系ロシア人に次ぐ第2の人口規模の民族だ。他の地域では、クリミア、カザフスタン、ウズベキスタン、トルコ、新疆などにも多く住んでいる。

* * *

ところで、彼女は僕のことを韓国人だと思っていたそうだ。だいたいどこ行っても韓国人か中国人だと思われることが多いので、それはいいとして、もし僕が韓国人とか中国人だったとして、彼女は日本人男のこのバカげた話を、韓国人とか中国人にしていたということになる。こうやって日本人の情けない評判が着実に広がる。

彼女に抗議されても英語を全く解せずヘラヘラ笑ってた日本人男は、ホテルの人が彼女の苦情を聞いて、この日本人男に抗議しに行ったが、やはり英語が全く通じず、スマホの会話もやめず、笑い続けていた。

これは極めて特異な、例外的な日本人男の話だと信じ込もうとして、今もがいている。

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