次のLIVEのタイトルは『アメリカの文化大革命』です。言うまでもなく、中国の文化大革命のもじりです。もちろん今、ドナルド・トランプがやろうとしていることと、約60年前に毛沢東がやろうとしたことの間には何の関連もなく、まったく関係のない二つの出来事です。
余談:ただ、中国の文化大革命が、毛沢東が劉少奇から実権を奪回して、自己の復権を目的として仕掛けた大規模な権力闘争であり、大衆扇動であったことは、今トランプが復権し、しばしば、ネオリベ、ディープステート、グローバリスト等々と呼ばれる旧体制との大掛かりな権力闘争を展開し、大衆を巻き込んだ分裂を引き起こしていると言われる現状を連想させるものがあります。
念のために書いておきますが、中国の文化大革命の場合は、多数の人命が失われ、中国国内の多くの主要な伝統文化や遺産が破壊され、かつ経済および学術活動の長期停滞をもたらしましたが、アメリカはまだそこまでは行ってません。これからどうなるかは分かりませんが。
タイトルについての余談はそれくらいにします。
前回のLIVE 74 革命的な常識では、第二期トランプ政権が始まって、約1ヶ月の間に彼が手をつけ始めたことをランダムにピックアップしていきましたが、今回は、政権開始後3ヶ月が経ち、第二期トランプ政権の政策に関する様々な解釈が出てきたので、それをいったん整理するというのが目的です。
トランプ・ヘイターが言うように、”トランプ試験は一般市民の人権が剥奪し、独裁国家へ向かっている”と一文で整理できれば簡単なのでしょうが、実際は(そのような要素も含めて)、はるかに複雑であることをトランプ政権は露呈してきています。よく観察してみれば、相互に矛盾する発言をし、実際そのような政策を実行しています。上に「様々な解釈」と書いたのは、それを整合的に理解するにはどう考えればよいのかについて、異なる視点が提供されていることです。面白いという言葉が適当なのかどうか微妙な話題ですが、英語圏では伝統的メディアでもYouTubeなどでも、そこが非常に面白い状況になっています。日本語メディアやSNSでは見かけない展開です。
ただ一つだけ悪目立ちしているとでも言えそうな話題に、いわゆるトランプ関税がアメリカ製造業の復興を目論むものだという理論を揶揄して、アメリカ人が工場労働者として働くAI動画が出回っていますが、これもトランプ政権の発言を一つ取り上げただけで、深い分析に基づくものではありません。実際、トランプ政権は経済政策に矛盾を抱えたまま動いているという方が正確でしょう。上の理論は、財務長官のスコット・ベッセントが主に話しているものですが、トランプ政権内には、国家主義的ポピュリスト派も、テクノ・リバタリアンも、議会共和党派もいて、トランプ政権は決して一枚岩ではありません。それならば、まったく一貫性のない政権なのかと言えば、そうでもなさそうだという点で、トランプ政権の性質を整合的に解釈しようとして、識者たちは頭をひねっています。
一つの有力な見方として、「結局トランプは何も考えていない」というのがあります。これは僕が以前から言っていることと近いものがあります。トランプの行動原理は、極端な「ナルシシズムと直感」だというのが僕の説です。「オレ様が一番だ」、「アメリカが一番でなければいけない」、「アメリカが一番強いのだ」、「アメリカが一番美しいのだ」というのが、前者の「ナルシシズム」からほと走り出てくる一方、彼は徹底的な無教養で、それを補って余りある優れた「直感」を持っている。優秀な側近たちが小難しい経済学的議論を戦わしていても、結局最後はトランプ自身の直感で政策が決定されてしまう。この一貫性のなさに一貫性がある。彼の直感の基礎にあるのは整理整頓された情報ではなく、文化であり、そしてその文化は何なのか?そこが理解できれば、彼の行動はほぼ予測がつくというのがこの見方です。
英国のファイナンシャル・タイムズの編集委員長で、かつ人類学の博士号を持つ、ケンブリッジ大学キングス・カレッジの学長でもあるGillian Tettのインタビュー記事は、トランプの一見矛盾に満ちた経済政策を文化人類学的視点を導入して解釈しようとしていて大変理解しやすいものでした。日本でも知られているカール・ポランニーやピエール・ブルデューの考え方も引き合いに出しており、日本人にもそれなりに馴染み深い論考だと思います。西洋人よりも、むしろ日本人の方がこういう文化的視点は理解しやすいのではないだろうかと思う。
今回はこの記事を中心にして、トランプがアメリカの政策決定過程に持ち込む文化的な革命について話をします。時間があれば、下記のGillian Tett のインタビュー記事に目を通しておくことをお勧めします。
OPINION – THE EZRA KLEIN SHOW
Is Trump ‘Detoxing’ the Economy or Poisoning It?
March 14, 2025, The New York Times
参加要領
日時:2025年4月20日。午後1時〜3時
場所:Zoom
参加費:LIVEメンバーは無料。一般は、1100円。
申込方法:下のフォームに記入する。(注:LIVEメンバーも記入が必要です。クーポンコードを忘れないように!)
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