LESSON 2 自民党の改憲戦略
ポツダム宣言
ここでは、1955年の自民党の結党から現在に至るまで、自民党が改憲の実現のために何をして来たかを振り返りますが、その前に現在の我々の国である日本国が成立する起源にあるポツダム宣言について何が書かれていたかを理解しておくことは重要です。大日本帝国でも江戸幕府でも邪馬台国でも倭国でもなく現存する国は日本国ですから、日本国の出発点を知らずに、その後の歴史を理解することは出来ません。下のボタンをクリックすると、ポツダム宣言を読むことが出来ます。それを一読してから、もう一度ここに戻ってきてください。
自民党政綱
自民党は、結党時に憲法改正を目指すことを宣言しました。下の党の政綱の6番目に注意して読んでみてください。
党の政綱
一、 国民道義の確立と教育の改革
正しい民主主義と祖国愛を高揚する国民道義を確立するため、現行教育制度を改革するとともに教育の政治的中立を徹底し、また育英制度を拡充し、青年教育を強化する。
体育を奨励し、芸術を育成し、娯楽の健全化をはかって、国民情操の純化向上につとめる。
ニ、 政官界の刷新
国会及び政党の運営を刷新し、選挙制度、公務員制度の改正を断行して、官紀綱紀の粛正をはかり、政官界の積弊を一掃する。
中央、地方を通じ、責任行政体制を確立して過度の責任分散の弊を改めるとともに、行財政の簡素能率化をはかり、地方自治制度の改革を行う。
三、 経済自立の達成
通貨価値の安定と国際収支の均衡の上に立つ経済の自立繁栄と完全雇用の達成をはかる。
これがため、年次計画による経済自立総合政策を樹立し、資金の調整、生産の合理化、貿易の増進、失業対策、労働生産性の向上等に亘り必要な措置を講じ、また資本の蓄積を画期的に増強するとともに、これら施策の実行につき、特に国民の理解と協力を求める。
農林漁業の経営安定、中小企業の振興を強力に推進し、北海道その他未開発地域の開発に積極的な対策を講じる。
国際労働憲章、国際労働規約の原則に従い健全な労働組合運動を育成強化して労使協力体制を確立するとともに、一部労働運動の破壊的政治偏向はこれを是正する。
原子力の平和利用を中軸とする産業構造の変革に備え、科学技術の振興に特段の措置を講じる。
四、 福祉社会の建設
医療制度、年金制度、救貧制度、母子福祉制度を刷新して社会保障施策を総合整備するとともに、家族計画の助長、家庭生活の近代化、住宅問題の解決等生活環境を改善向上し、もって社会正義に立脚した福祉社会を建設する。
五、 平和外交の積極的展開
外交の基調を自由民主主義諸国との協力提携に置いて、国際連合への加入を促進するとともに、未締約国との国交回復、特にアジア諸国との善隣友好と賠償問題の早期解決をはかる。
固有領土の返還及び抑留者の釈放を要求し、また海外移住の自由、公海漁業の自由、原水爆の禁止を世界に訴える。
六、 独立体制の整備
平和主義、民主主義及び基本的人権尊重の原則を堅持しつつ、現行憲法の自主的改正をはかり、また占領諸法制を再検討し、国情に即してこれが改廃を行う。
世界の平和と国家の独立及び国民の自由を保護するため、集団安全保障体制の下、国力と国情に相応した自衛軍備を整え、駐留外国軍隊の撤退に備える。
しかし、結党から約半世紀間は憲法改正のための具体的な進捗はありませんでした。その停滞を破ったのが安倍晋三でした。まず国民投票法を2007年に成立させます。2014年に集団的自衛権の行使を合憲であるとする解釈改憲を閣議決定で行い、その翌年、その新しい解釈に基づいて安保関連法案を強行採決で成立させました。
約半世紀の間、主流憲法学者や内閣法制局が違憲であると解釈してきた集団的自衛権の行使が、これ以後、合憲であると政府は解釈することになりました。主流の憲法学者は、現在、違憲状態が発生していると考えています。
平和安全法制
この動画には強行採決が出てきます。何を強行に採決したのでしょうか?なぜ、強行でなければいけなかったのでしょうか?
最大の争点は、集団的自衛権の行使が憲法違反に当たるのではないかということです。第二次安倍内閣が2014年7月1日、集団的自衛権の行使は合憲であると閣議決定しました。これまでの内閣法制局及び主な憲法学者の「集団的自衛権の行使」に関する解釈は違憲でした。そこで、内閣が解釈を変えて実質的な改憲が行われたために、解釈改憲という言葉が盛んに使われるようになりました。
この強行採決により成立した法律が安保法制と略称で呼ばれるものです。他にも、安全保障関連法案、安保法案、安全保障法制、安全保障関連法、安保法制、安保法、戦争法など略称はたくさんありますが、全て同じものを指しています。
強行採決された安保法制を構成するのは、次の二つの法律です。
- 平和安全法制整備法:正式名称「我が国及び国際社会の平和及び安全の確保に資するための自衛隊法等の一部を改正する法律(平成27年(2015年)9月30日法律第76号)」
- 国際平和支援法:正式名称「国際平和共同対処事態に際して我が国が実施する諸外国の軍隊等に対する協力支援活動等に関する法律(平成27年9月30日法律第77号)」
平和安全法制整備法要綱と国際平和支援法の全文は、ここで読めます。
憲法学者を対象としたアンケート
朝日新聞
朝日新聞が、2015年6月下旬に憲法学者ら209人を対象に行ったアンケートがあります。122人から回答があり、97.5%の憲法学者が、「憲法違反にあたる」もしくは「憲法違反の可能性がある」と回答しています。(回答は2015年6月30日付)
NHK
同時期に、NHKもアンケートを行いました。憲法・行政法の最大の学会である日本公法学会の会員・元会員(名誉教授)1146人にアンケートを郵送しています。
回答が得られた422人のうち、377人が「違憲・違憲の疑い」があると回答、28人が「合憲」と回答しています。それをまとめたのが下の円グラフです。
このグラフは、NHKが作成したものではなく、早稲田大学法学部の水島 朝穂(みずしま あさほ)教授のスタッフによって作成されてものです。おかしいと思いませんか?そう、何かおかしいのです。NHKは、「違憲・違憲の疑いあり」がほぼ9割に上る結果となったことを一生懸命隠蔽していたのです。これに関しては、高野孟さんが日刊ゲンダイDIGITAL の中で、憲法学者へのアンケート結果を隠蔽して官邸に媚び売るNHK(2015/07/30)という記事で書かれています。
最初に気が付かれたのは、前述の水島教授でした。その経緯については、NHK憲法研究者アンケートのこと――合憲・違憲の決着はついている(2015年7月27日)で詳しく説明されていますので、ご一読をお勧めします。