CHAPTER 7 日本の憲法2

LESSON 1 改憲の現実性

日本国憲法 第96条

この動画では、日本国憲法を改正するという自民党の願望は現実的なのかどうかを説明します。まず、日本国憲法を改正するためのルールを理解することが大切です。それは、日本国憲法の第96条に定められています。

日本国憲法

第九章 改正

第九十六条 この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。この承認には、特別の国民投票又は国会の定める選挙の際行はれる投票において、その過半数の賛成を必要とする。

 憲法改正について前項の承認を経たときは、天皇は、国民の名で、この憲法と一体を成すものとして、直ちにこれを公布する。

第96条は、第1項と第2項の二つから構成されています。第1項に2文あります。第1項の一文目「この憲法の改正は、各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議し、国民に提案してその承認を経なければならない。」で重要なのは、「各議院の総議員の三分の二以上の賛成で、国会が、これを発議」するというところです。発議というのは、憲法改正を国民に提案するということです。改憲の最終決定権は、もちろん国民にあるからです。

各議院の総議員の三分の二以上の賛成というのは現実的に可能なのでしょうか?それを想像するために、下の表を見てください。

各議院というのは、衆議院と参議院のことです。それぞれの議院で総議員の三分の二以上が憲法を改正しようと賛成すれば、国民にそれを提案し、国民投票という形で承認してもらうという段階にうつります。それが第1項の二文目に書いてあることです。ここで、「その過半数の賛成を必要とする」という表現が非常に大きな問題になります。「その過半数」とは、何の過半数なのか?有権者全員の過半数なのか、投票した人の中での過半数なのか?

日本には約1億人の有権者がいます。「その過半数」を全有権者の半数と考えると、5000万人が改憲に賛成しなければいけないということになります。しかし、「その過半数」を投票総数の半数と考えると、必要な賛成投票数は投票率によって大幅に変わってきます。例えば、投票率が50%なら、2500万人が改憲に賛成するだけで、国会が発議した憲法改正は承認されます。全有権者のたった25%の意志で憲法が改正されるということです。

国民投票法

「その過半数」に関して、とても重要な法律が2007年に成立し、2010年に施行になりました。この法律により、「その過半数」は、投票総数の二分の一を超えた場合となりました。つまり、投票率が低ければ低いほど、改正に必要な賛成の投票数は少なくてもよくなります。

日本国憲法の改正手続きに関する法律

第三章 国民投票の効果

第百二十六条 国民投票において、憲法改正案に対する賛成の投票の数が第九十八条第二項に規定する投票総数の二分の一を超えた場合は、当該憲法改正について日本国憲法第九十六条第一項の国民の承認があったものとする。

 内閣総理大臣は、第九十八条第二項の規定により、憲法改正案に対する賛成の投票の数が同項に規定する投票総数の二分の一を超える旨の通知を受けたときは、直ちに当該憲法改正の公布のための手続を執らなければならない。

最低投票率

しかも、最低投票率は設定されていません。例えば、投票率が10%のような低いものであっても、その国民投票は有効であり、その過半数が賛成すれば、憲法改正は成立する。つまり、全有権者の5%の意志で憲法は改正される。

最低投票率制度に関してさらに詳しく知りたい方は以下を参照してください。

憲法改正国民投票における最低投票率~検討するに当たっての視点~

テレビCM

国民投票日の14日前まで、テレビCMを使った国民投票運動が行えます。賛成派と反対派の資金力の差が大きな影響を与えます。

(投票日前の国民投票運動のための広告放送の制限)

第百五条 何人も、国民投票の期日前十四日に当たる日から国民投票の期日までの間においては、次条の規定による場合を除くほか、放送事業者の放送設備を使用して、国民投票運動のための広告放送をし、又はさせることができない。

教育者

教育者は国民投票運動を行うことが禁じられています。

第百三条 国若しくは地方公共団体の公務員若しくは行政執行法人(独立行政法人通則法(平成十一年法律第百三号)第二条第四項に規定する行政執行法人をいう。第百十一条において同じ。)若しくは特定地方独立行政法人(地方独立行政法人法(平成十五年法律第百十八号)第二条第二項に規定する特定地方独立行政法人をいう。第百十一条において同じ。)の役員若しくは職員又は公職選挙法第百三十六条の二第一項第二号に規定する公庫の役職員は、その地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して、国民投票運動をすることができない。

 教育者(学校教育法(昭和二十二年法律第二十六号)に規定する学校及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律(平成十八年法律第七十七号)に規定する幼保連携型認定こども園の長及び教員をいう。)は、学校の児童、生徒及び学生に対する教育上の地位にあるために特に国民投票運動を効果的に行い得る影響力又は便益を利用して、国民投票運動をすることができない。

欽定憲法と民定憲法

欽定憲法とは、王様や皇帝(君主)が、自らの主張や意見を盛り込んで制定した憲法のことです。大日本帝国憲法やプロイセン憲法がその例です。

これに対して、国民主権の思想に基づいて、国民によって制定された憲法を民定憲法と呼びます。日本国憲法はその代表例です。